Posted: 07 Dec. 2023 10 min. read

高い柔軟性で、あらゆる企業に適した仕掛けを構築

ESGソリューションサービスを展開する各社との対談シリーズ

IFRSでのサステナビリティ開示基準や欧州のCSRD/ESRS、SECの気候関連開示規則案の最終化が進む現在、有価証券報告書の開示項目にサステナビリティに関する記載欄が新設されるなど、経営戦略に企業のサステナビリティ対応が求められるようになった。サプライチェーン、Scope3、人権、生物多様性など、サステナビリティ対応の基盤となるESGデータは多岐にわたる。それら非財務情報の収集や分析だけではなく、連結で財務と同じタイミングでかつ制度や内部統制を含む第三者保証が求められる中、テクノロジーの活用は欠かせない。

今回はワーキーバジャパン合同会社の大八木邦治氏と小口尋之氏にお話をうかがった。

■データとナラティブをセットに扱えるユニークなソリューション
 

大八木氏:ワーキーバジャパンの営業代表を務めている大八木と申します。ワーキーバジャパンを立ち上げたのは2020年4月ですが、私は第一号社員として参加しました。Workivaはまだ小さな組織ですが、当社のユニークなソリューションは今後さらに広がっていくと確信しています。ブランディングを広めるためにパートナーとコラボレーションしたり、さまざまな機会を利用したりしていきたいと考えています。

 

大八木 邦治氏(ワーキーバジャパン合同会社 エリア セールス ディレクター)

 

小口氏:ワーキーバジャパンでソリューションエンジニアを務めている小口と申します。Workivaに入社する前は、ビジネスインテリジェンス(BI)やデータビジュアライゼーション、サプライチェーンの最適化などを得意とするソフトウェアベンダーでソリューションエンジニアを担当していました。日本に与えるインパクトが大きいと感じ、Workivaに入社しました。

 

中島(デロイト):ありがとうございます。それではWorkivaの詳細について教えてください。

 

大八木氏:米国SECのファイリング専業ベンダーとしてスタートし、レポーティングプラットフォームの会社と認知されています。北米、ヨーロッパ、アジア圏での展開を進めており、従業員数はグローバル全体で2,000名強です。

SECのレポートは日本の有価証券報告書と同じ形式で、数字とナラティブ(コメント、追記など)をセットにしています。その変更過程などもしっかりと捕捉することができます。日本でも有価証券報告書のレポート制作を得意とする企業やソリューションはありますが、SECレポートだけでなく、財務・非財務開示全般の領域についてもカバーできるソリューションです。

Workivaは、レポートのほかに開示業務全般やデータの収集、データコレクションのチェックや変更履歴やコメントやタスクの管理などのプロセス全般をワンストップでサポートしており、我々はデータエンパワーメントプラットフォームと位置づけて事業を展開しています。

 

小口氏:ESG関連の開示業務にも取り組んでいます。ESG関連のソリューションを提供しているベンダーの多くは、例えばGHG排出量の算定といった得意領域はあるもののそれ以外は対応できないというケースが多いですね。特にレポートやナラティブなどはフォローできていません。そういった部分もカバーできるのが我々のソリューションの強みとなっています。

 

小口 尋之氏(ワーキーバジャパン合同会社 シニア ソリューション エンジニア)


なお、ESGソリューションについては、多数ある開示フレームワークをウォッチし、皆様に提供しています。お客様から「フレームワークを調査・理解するのはとても難しい」という声が多く、そういったご要望に対応すべく提供を始めました。

このソリューションを使うことで、特定の項目を開示する際にどのESGプログラムに関連づけて管理や進捗を追跡すべきかを明確に把握できます。また、最新情報も提供しており、例えばESRS(欧州サステナビリティ報告基準)のペンディング版などについては既に提供済みとなっています。

また、Workivaはさまざまなシステムと連携してデータを収集できる他、ナラティブや手動入力を混在させることも可能です。100%システム化していない状態からでも始めることができるといった意味では、他に類を見ないソリューションと言えるでしょう。

 

中島(デロイト):Workivaはグローバル展開されていますが、日本固有のニーズにはどのように対処されているのでしょうか。ローカライズやカスタマイズなどについて教えていただけますか。

 

小口氏:ローカライズについてはすでに準備が整っていて、日本語で動作するようになっています。日本特有の機能については、現状「これがないと使えない」というものはありません。さまざまな業務において有効なソリューションとして提供することができます。

 

大八木氏:スプレッドシートは1ユーザーが作業をすることを前提としていますが、WorkivaはSaaSで提供されていて、1つのスプレッドシートに対して複数のユーザーが同時にアクセスし、編集することが可能です。さらに、編集履歴の確認やシートやセルに対する入力制限の設定が可能で、ESG領域などの業務にも適用しやすいソリューションとなっています。

 

小口氏:Workivaを活用いただくことで、スプレッドシートのバケツリレーと呼ばれる業務からの脱却も可能です。実は欧米でもスプレッドシートのバケツリレーが問題視されていて、そこから脱却するためにWorkivaが導入されているんです。そのため、日本ユーザーとの親和性が高いと感じています。

 

大八木氏:サステナビリティ経営では、情報開示に関する課題が多く、これらを解決するために多くの企業が多大な労力を費やしています。特に、スプレッドシートでデータを収集し整理するだけでも多くの時間とエネルギーが必要で、データのサイロ化も問題となっています。業務の効率化を図り、企業価値を向上させるためにリソースを活用したいと考える多くの企業にとって、Workivaは非常に有用なソリューションとなっています。

Workivaは財務・ESG関連ソリューションといった外部システムと連携させることもできますし、各担当者に依頼をして入力してもらうようにスプレッドシートのファイルに入力したデータを手動で取り込むこともできます。データ収集時にシステムから自動的に取得したり、手動でデータを取得したりする選択肢があります。これにより、業務設計が柔軟で広範囲に適用できます。

フレームワークやプロセス、定義をどうするかといった上流工程については、コンサルティングファームの力を借り、一緒にコラボレーションしながらお客様への浸透を図るケースも増えています。

 

中島(デロイト):現在、ESG情報の開示が注目されていますが、将来的には会計監査と同等のレベルが求められるようになるでしょう。そうなると非財務版のJSOXという新たな要素も出てくるかもしれません。しかし、現状の業務フローではそれに対応することは難しい。そのため、財務・非財務ともに使われているWorkivaについての理解を深めることが重要だと考えています。

 

中島 史博(有限責任監査法人トーマツ リスクアドバイザリー事業本部 ESG統合報告アドバイザリー ディレクター)

 

大八木氏:Workivaは財務・非財務に関する情報開示のためのエンパワーメントプラットフォームであり、すでにグローバルで5,900社程のお客様にご利用いただいています。リテンション率も高く、大手企業が利用するケースが多いですね。

中でも「ESGセントラルファクトブック」は、システムなどから収集した開示に必要なデータを蓄積し、レポートなどにリンクすることでデータ活用を可能にする特筆すべき機能となっています。このファクトブックを使って情報を一箇所に蓄積することで、必要なデータを常に取得できるようになりますし、エビデンスとしての証憑を添付することもできるようになっています。

現在、ESGデータに合理的保証を得られている企業は多くはありません。しかしながら、ESG関連リスクの特定と評価は優先度が高い事項となっています。そのため、ESGデータの収集と保証は必須ですし、それらを通じて企業価値とレピュテーションを向上させることが求められています。

これらの情報は財務諸表だけでは把握できません。例えば、ある事業の中でどれだけプラスチックを使っているのか、どれだけ代替できるのか、そのときのコストはいくらなのかという情報が必要です。利益率が高くても環境に配慮していない事業は、どのように環境に配慮する形に変えていくかを示す必要があるでしょう。そのためには、細部まで見ていく必要があるのです。

現状を見ると、多くの企業がこれらの情報をスプレッドシートで収集しようとしています。部門ごとにデータを取得・加工し、他の部門に必要な情報を提供するよう依頼していますが、異なるシートに入力フォームを作成し、それらを集めて転記・集計しなければなりません。アクセス管理については、フォルダレベルが限界です。その上、開示レポートの数は膨大で、それら全てを作成するのは非常に大変な作業となっています。

Workivaを使えば、これらの問題を解消できます。Workivaは、シートやセルごとにアクセス管理を行い、必要な箇所だけ入力してもらうことができるからです。ユーザーごとに情報入力の依頼ができ、進捗のチェックも可能です。また、コメントの入力や特定ユーザーへのメンションなどのコラボレーション機能も充実しています。問題箇所があれば簡単に伝えることができ、コメント等の履歴も取得できるので、誰が作業したかもすぐに確認できるのです。

 

 

■ファクトブックにデータを集め、スプレッドシートのバケツリレーからの脱却を

 

三沢(デロイト):ファクトブックには、ESGだけでなく「財務」の情報も含まれると思います。ERPなどの仕組みと連携し、ファクトブックに必要な粒度のデータを取得し、財務・非財務が共存した形で蓄積されるということでしょうか。

 

三沢 新平(デロイト トーマツ リスクアドバイザリー株式会社 デジタルガバナンス マネージングディレクター)

 

小口氏:   ファクトブックにデータを集める際、他のシステムから抽出、変換、書き出しを行い、さまざまなツールからデータを取得できます。例えば、Persefoniや連結会計の仕組みからもデータの取得が可能です。読み込まれたデータは、Workivaのスプレッドシートで扱うことができます。

Workivaでは、コアファイナンスといったデータソースから取得してファクトブックに保存できます。企業によっては、ERPが複数並列しているケースや、連結会計の仕組みがあるケースがありますが、そういった仕組みからデータを取得し、単純に合算できるものは合算し、調整が必要なものはファクトブックの手間で処理することもできます。エンタープライズソフトと連携するために60個のコネクタを用意していますので、SAPやPersefoniなど、他のソリューションとの連携も可能です。

 

大八木氏:グローバル企業の場合、それぞれの地域会社のデータを本社が確認できないケースもあります。そういった場合は、開示に必要な情報をエクスポートして、ファクトブックに取り込むといった、システムから取得できるデータとマニュアルで収集するデータの混在といった柔軟な対応が可能です。そのようなデータをSingle source of truthであるファクトブックをきちんと作っていこうと提案しています。

我々の仕組みは柔軟性が高いため、全てをESGデータ取得のために全てをシステム化しなくても導入可能です。その際、合理的保証を担保する、誰が変更・承認したのかというようなデータやナラティブの変更履歴なども合わせて持つことができます。

 

三沢(デロイト):同様に、人的な情報もシステムから連携したり、サプライチェーンなどの情報も取得したりできるのですね。このファクトブックですが、自由に作れることは理解できましたが、例えばインダストリー毎にテンプレートなどは提供されているのでしょうか。

 

大八木氏:インダストリー毎を含めて特にテンプレートは用意しておらず、企業ごとに任意で作っていくことになります。世の中には、ESG関連のデータをダッシュボードなどで表示できるソリューションもありますが、そういったものも特に用意していません。しかし、柔軟なレポート機能を使うことで、お客様がすでに持っているレポートをベースにモディフィケーションすることは可能となっています。

(図:ワーキーバジャパン合同会社様ご提供)



例えば、ESGであれば各社のマテリアリティによって何を集めるのか変わってきますので、そういったことから決めていく必要があるでしょう。例えば、デロイト トーマツ様はWorkivaでCSRDのテンプレートを作成されていますが、そういったものもファクトブックの1つです。

Workivaは、GHG関連の高度な算出量計算を行うトランザクションシステムではないため、そういったことは専門のツールなどと連携し、必要なデータをWorkivaに集約し扱うことができるようにしています。

 

中島(デロイト):Workivaは柔軟性が高く、自由に作っていくことができる故に、決まった型がないということですね。例えば、「女性管理職比率」などをKPIにする場合、従業員の情報や職位、性別などのデータがあれば女性管理職比率を出すことが可能です。そういったロジックについても標準では実装していない。しかし、そういったロジックを設定して実装することができる。GHGの排出量の計算についても同様で、自分でロジックを作ってもいいし、他のツールから入手してもいい。複雑な計算をWorkivaの中でも組み込めますし、他のツールから取り込めば、計算のメンテナンスなどせずに下流のプロセスに流していくことができるという仕組みということですね。

 

大八木氏:そうですね。そのためWorkivaの競合というものも存在していません。もちろんポイントソリューションという意味では競合することもありますが、ESGでは、それらのツールと連携しながら企業のESG活動を支援できるソリューションとなっているんです。

 

三沢(デロイト):目標に対する実績のダッシュボードなども、目標を入れ、実績情報を取り込み、進捗を確認するレポート画面を作ればいい。しかし、そういったダッシュボードが元々実装されている訳ではない。つまり、要望に応じて必要な仕掛けや画面を作っていくことが可能となっていて、その柔軟性の高さがWorkivaの最大の特徴だと理解しました。

 

大八木氏:その通りです。また、表現力も豊かです。さまざまなレポート形式に対応できますし、レイアウトの要件が厳しいものにも対応を進めています。また、デザイン用のファイル形式でもエクスポートすることも可能です。

今後、ESGに関しても財務のような監査が求められるようになるでしょう。そうなると、そのプロセスが本当に正しいかを確認するため、情報の取り方まで管理しなければならない。そういったことも見据えています。

成果物となる報告書などは財務・非財務のそれぞれの情報が入ってきますし、それぞれの役割分担もあります。「経理は財務データを確定してほしい」、「経営企画は個々の文章を書いてほしい」というように、全体のコラボレーションになってきます。さまざまな部署が関連することになりますが、それらのプロセスも含めてWorkivaが管理します。

(図:ワーキーバジャパン合同会社様ご提供)

 



■グローバルでの実績も多数。日本国内での導入にも期待

 

三沢(デロイト):開示で必要な機能については全て揃えることができるという印象を受けました。ひとつ気になっているのが、得意な業界などはあるのかということです。例えば、私のお客様は製造業や自動車などが多いのですが、カーボンフットプリントなどを製品別やライフサイクル別にサーキュラーエコノミーまで踏まえて捉える必要があります。その辺りは対応できますか。

 

大八木氏:特に得意・不得意な業界はなく、幅広い業界で導入が進んでいます。どの会社も、開示しなければいけないデータは必ずあります。サスティナビリティレポートやファイナンシャルレポート、社内の報告書などもそうですね。そういった意味では、業種に偏りなどはありません。自動車や製造業など、セグメントで見たいケースにも対応している事例があります。

 

小口氏:Workivaは想定しているデータモデルがないため、製品や組織などのさまざまな側面に柔軟に対応できます。この柔軟性を活かして、製造業での導入が進んでいます。例えば、製品や組織のさまざまな視点でデータを分析しやすい設計が可能です。

 

大八木氏:我々はさまざまな事例を紹介できます。例えば、ファイナンスとESGの両方で当社のサービスを活用している企業の事例などもあります。グローバル展開している企業は、ESGの報告を提出するための投資家からの要求も強まってきます。情報開示ではレーティング会社や投資企業、機関投資家などに対して、必要な情報を効率的かつタイムリーに提供することが求められているのです。それを実現するプラットフォームとしてWorkivaが選ばれています。

グローバル展開している企業では、多数のメンバー・部門が関与し、複雑なプロセスを介してデータが出てくるため、業務の効率化は避けて通れません。

また、誰が何をどのように変更したのかという履歴を含めて、レポートの作成・開示の業務を円滑に進める必要もあります。

個別に仕組みを作る場合、連携やインテグレーションなどを考慮しなければなりませんが、Workivaを利用すればファクトブックやリンク、スプレッドシートなどを組み合わせて、必要な仕組みを柔軟に構築することが可能です。さらに、外部データの取り込みも可能なため、入力の手間などを削減でき、社内の業務効率化にも寄与します。
 

(対談の様子)

 

中島(デロイト):そういった大規模な企業の場合、導入にどれくらいの期間が必要でしょうか。

 

大八木氏:ケースバイケースですが、構想からカットオーバーまで6ヶ月から8ヶ月ほどというケースが多いですね。プロセスが複雑になると、導入期間が長くなることもありますが、そういったケースは稀です。Workivaは、柔軟性が高く、自走可能な特性を持つため、導入期間は短いケースがほとんどです。

例えば、ESRSのデータポイントを一気に取り組もうとすると、1,100項目もの情報が必要で、マテリアリティとの関連も考慮しなければなりません。そのため、通常は段階的にプロジェクトを進め、情報収集を徐々に拡大していくことが多いですね。

現在、デロイト トーマツ様とも話し合いを進めていますが、そのプロジェクトの導入期間も8ヶ月程度です。デザインフェーズで3ヶ月、残りをレポーティングに割り当てるというスケジュールで進めています。

大規模で長期間にわたるプロジェクトというより、少しずつ進化させていくことが重要で、コアとなるものをしっかりと作り、必要なものを追加していくプロジェクトとなります。

 

中島(デロイト):ありがとうございます。Workivaについての理解が深まりました。欧米が先行しているということでしたが、日本企業の皆さんにメッセージをお願いします。

 

小口氏:欧米では、良いツールを積極的に活用して仕事を変えるという動きをボトムアップで行っています。しかし国内企業を見ると、精神力でカバーしていることが多いように感じています。日本企業の皆様も、ツールを適切に使うことにもっと注力していただきたいと思います。

もちろん、先進的な日本企業は、欧米などの事業体での活動を取り入れ、ツールを活用し始めています。「Workivaがなければこの仕事はしない」というケースもあるので、そういった動きを推進していただければと思います。

 

大八木氏:多くの企業では、現在も情報開示のためにさまざまな部門と連携し、スプレッドシートのバケツリレーでレポートを作成しているのが現状です。これは本来のコア業務ではないにもかかわらず、多くの時間と労力を費やす必要があります。こういった作業にかける時間と労力を削減し、知的労働により多くの時間を充てるために、Workivaの活用をおすすめしています。
 

(左から、三沢、中島、大八木氏、小口氏)

 

プロフェッショナル

三沢 新平/Shimpei Misawa

三沢 新平/Shimpei Misawa

デロイト トーマツ グループ マネージングディレクター

コンサルティングファームおよび外資系ソフトウェア会社にて、デジタルトランスフォーメーション戦略、ビジネスモデル設計、デジタルマニュファクチャリング構想・設計、スマートファクトリー構想・設計、温室効果ガス(GHG)排出量削減を中心としたサステナビリティ戦略などをテーマに、自動車業界および製造業のお客様を中心にビジネス戦略を支えるDXコンサルティング業務に幅広く従事。 デロイト トーマツ グループに入社後は、デジタルガバナンスのマネージングダイレクターとして、自動車・製造業向けに複雑化・不安定化が増すサプライチェーンxサステナビリティxデジタル領域のリスクアドバイザリー関連サービスを提供。