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ファミリーオフィスの運用における考慮事項

ファミリーコンサルティングニュースレター 2021年9月

前回配信した記事では、ファミリーオフィスの概要と意義をご紹介いたしました。今回は、ファミリーオフィスの実際の運用に欠かせない論点である、「ガバナンス」・「コスト構造」・「人材」についてご紹介いたします。

前回の記事はこちら

ガバナンス

ファミリーオフィスの設立と運営、または既存のファミリーオフィスのサービスを拡充する際、長きにわたって繁栄させるためには、一族の資産の適切な管理・保護体制、また、慎重な考慮と計画が必要です。他の組織と同様に、ファミリーオフィスの相対的な成功・失敗は、いかに効果的にガバナンス体制を構築・実行できるかに大きく左右されます。ガバナンスに関する重要な考慮事項は次のとおりです。

  • バランスのとれたリーダーシップと委任:ファミリーオフィスは多くの場合、家族の年長世代によって設立されますが、効果的なガバナンスには、シニア世代の経験豊かなリーダーシップと他者への選択的な委任の両立が大変重要になります。ビジョンと戦略は家族が設定すべきであり、戦術的な意思決定とその実行は、適した家族のファミリーオフィスのメンバーに任せ、外部のアドバイザーが支援する形が適しています。
  • 効果的なコミュニケーション:ファミリーオフィスは、家族間のコミュニケーションの中心としての役割を担うことが多くあります。ファミリーオフィスはしばしば家族会議を主催し、ファミリーオフィスの主導者はしばしば若い世代に特定のメッセージを伝える任務を負っています。
  • 取締役会による監督:ファミリーオフィスの代表的な取組みでは、監督や指示を出すため、取締役会を設立することが一般的です。その際、取締役会の構成を慎重に検討することが不可欠です。ほとんどの場合、取締役会には、対照的な視点を提供できる年長の家族と、客観的な部外者の両方を含めた方がよいと考えられています。
  • 後継者と危機管理計画:もう一つの主要な取組みは、承継やBCP(緊急時の計画)を通じて家族とファミリーオフィスの長期的な見通しを守ることです。例えば、計画を立て、家長が亡くなった後に何が起こるかについて家族を教育することは、混乱を減らし、家族の資産の方向性についての意見の相違や誤解を避けるための重要な要素になります。
  • 継続的な運用改善:ファミリーオフィスが既存の組織であるか、新たに設立された組織であるか、また、幹部が何年も前から就任していたか、新たに任命されたか等に関わらず、ファミリーオフィスの運用上の課題は絶えず形を変え、家族はそうした課題に直面することになります。ですが、そうした課題に直面する度、成功を収めるファミリーオフィスとそのサービスを享受する家族は、継続的に忍耐強く、プロセスの改善と革新に取り組むことによって繁栄します。

家族の死と税金は避けられるものではありませんが、その結果は意図しないものである必要はありません。ファミリーオフィスは、家長や主要な家族の死のような避けられない事態に備えて、家族や組織が計画を準備するのをサポートする唯一無二の立場にあります。そういった準備をしておくことで、ファミリーオフィス、ファミリーアドバイザー、そして最も重要なことに、家長の死による、個人的及び事業の影響に対処するにあたり、家族を非常に良い立場に置くことができます。

 

図1:ファミリーオフィスの効果的なガバナンスの諸要素

(831KB, PDF)
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コスト構造

ファミリーオフィスによって家族は大きな利益を得られますが、そのためには適切な年間運営予算が必要になります。実務上一般的に、年間運用コストは運用資産の約1%が適しているとされています。しかし、実際には、運用資産の額と種類、ファミリーオフィス業務の複雑さ、提供されるサービスの範囲、さらには外部運用報酬が計算に含まれるかどうかによって、コストの幅は30ベーシスポイントから200ベーシスポイントまで大きく異なる可能性があります。

ファミリーオフィスの年間費用が決定されたら、同じく重要な決定事項として、提供されるサービスに対してファミリーオフィスがどのように家族に請求するかを検討する必要があります。家族へ提供するサービスの料金は、ファミリーオフィスの運営コストをカバーし、継続する企業として運営できることを保証するのに十分な額に設定すべきと考えられます。このような料金に対する業界標準は存在しませんが、業界の主要な慣行には次のものがあります。

  • 時給ベースの変動報酬
  • 運用資産比率に応じた変動報酬
  • 合意されたサービス範囲に基づく固定料金
  • 配賦された費用の精算として設計された固定レート
  • 上記のいずれかのハイブリッドまたは組合せ

どのような方法を選択するにしても、料金は比較ベースで公正かつ合理的で、料金を負担する家族に対して透明性があり、正確に計算され、明文化された方がよいとされています。

一部のファミリーオフィスでは、サービスの市場レートを比較するために移転価格調査を実施しています。市場価格分析をすることによって、潜在的な税金の課題を回避し、公正な料金でサービスが提供されるという安心感を受託者に与えることができます。

人材

どのようなファミリーオフィスでも、成功の鍵となる重要な要素は、採用する人材にあります。魅力的な人材を引きつけ、保持することによって、ファミリーオフィスは適切な文化を創造し、高い維持力を保持し、家族のニーズとダイナミクスの変化に応じてうまく進化することが可能になります。

当然のことながら、給与と手当は、年間予算の50~75%を占めるファミリーオフィスの最大の年間コストです。このため、家族は労働力を集め、維持し、雇用した人材のモチベーションを向上させるために多くの時間を投資した方が良いとされています。

ファミリーオフィスの人材管理のための先進的な手法:

  • ファミリーオフィスの戦略とミッションを満たすために、短期的及び長期的な人材とリーダーシップの要件を特定する
  • 人材一覧表を作成し、高いポテンシャルを持つ人材や、高いパフォーマンスを発揮する人材、また、能力のギャップを特定する
  • 人材の育成、雇用、もしくは人材の有期受入れなどによるギャップを埋める方法を決定する
  • デュー・ディリジェンス、経歴調査、入社などを含む正式な採用プロセスを確立する
  • 雇用契約、非開示、プライバシーに関する約束などの適切な法的文書を執行する
  • 明確な役割、責任、指揮命令系統を定義する
  • 長期的な継承及び開発計画の作成
  • 方針と手順を記載した従業員のハンドブックを作成する
  • 従業員の福利を重視し、柔軟性のある職場環境を整備する
  • 従業員に、家庭オフィスの短期的及び長期的な目標に直接結びついた目標を設定し、その目標に報酬を直接結び付けるよう奨励する
  • 主要な従業員の維持を促進するための長期インセンティブを含む報酬制度を導入する
  • 有意義なフィードバックを含む、正式なパフォーマンス及びレビュープロセスを設定する

ファミリーオフィスのスタッフの規模は、家族の規模、提供されるサービスの種類と程度、及び相対的な財務保有状況と活動に応じて、一人、二人程度から100人を超える規模まで様々です。


最も一般的なファミリーオフィスのリーダーの役職には、最高経営責任者 (CEO) 、最高財務責任者 (CFO) 、及び最高投資責任者 (CIO) が含まれます。最近、多くのファミリーオフィスは、拡大した役割と技術の統合のため、最高技術責任者 (CTO) を加えている場合もあります。

ファミリーオフィスのビジネス需要が時代とともに変化しているため、新しい世代の従業員の要件も変化しています。家族やファミリーオフィスの雇用主は、これらの変化を認識し、才能を引きつけ、保持するためにどのように対応するかを考えることが重要です。

 

図2:ファミリーオフィスの人材を管理するにあたり考慮すべき論点

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※本記事は、掲載日時点で有効な日本国あるいは当該国の税法令等に基づくものです。掲載日以降に法令等が変更される可能性がありますが、これに対応して本記事が更新されるものではない点につきご留意ください。

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