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欧州委員会が「欧州保健連合」の構築に向けた提案を公表

【第121号】ライフサイエンス・ヘルスケアに関する海外サイバーセキュリティニュース

2020年11月11日、欧州委員会は、「欧州保健連合」の構築に向けて、EUの保健安全保障フレームワークを強化して、主要なEU機関の危機への準備および対応の役割を強化するための提案を公表しました。

第121号 2020.12.7公開

欧州委員会は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックや将来の保健緊急時に対する戦いをステップアップするために、EUレベルでの一層の調整が必要となるとしています。今回の提案は、現在の危機からの教訓に学びながら、現在および将来の保健危機の間、一層の強力な準備と対応を保証するために策定されました。

この提案では、健康に対する重大な越境脅威に関する既存の法的フレームワークを刷新することだけでなく、欧州疾病予防管理センター(ECDC)、欧州医薬品庁(EMA)など、主要なEU政府機関の危機に対する準備や責任の役割を強化することに焦点を当てています。

欧州委員会が提案するEU保健安全保障フレームワークは、欧州委員会およびEU関係機関による調整について一層強固な権限を構築するために、以下のような内容になっています。

  • 対応準備の強化:包括的で透明性のある報告・監査向けフレームワークとともに、国家レベルでの計画の適用のために、EU保健危機・パンデミック対応準備計画および提言を構築する。国家計画の準備は、欧州疾病予防管理センター(ECDC)およびその他のEU機関
  • サーベイランスの強化:人工知能およびその他の先進的な技術手法を利用して、強化・統合されたサーベイランスシステムが、EUレベルで構築される
  • データ報告の向上:加盟国に対しては、保健システム指標(例.利用可能な病床数、特別な治療および集中治療機能、医療的に訓練されたスタッフ数など)の報告をステップアップさせることが要求される
  • EUの緊急事態宣言は、拡大する調整の契機となり、危機関連製品の開発・備蓄・調達を許容する

そして、委員会および加盟国を支援するために、以下の領域において、欧州疾病予防管理センター(ECDC)の権限が強化されるとしています。

  • リアルタイムのサーベイランスを可能にする統合されたシステムによる疫学サーベイランス
  • 準備・対応計画、報告・監査
  • リスク管理のための拘束力のない提言および選択肢
  • 加盟国における地域の対応を支援するためにEU保健タスクフォースを動員・展開する機能
  • EUの基準検査室のネットワークと人間由来物質のネットワークの構築

現在、欧州委員会が構築・運用しているCOVID-19向け接触追跡アプリケーションの越境連携ゲートウェイもこれらの領域に含まれる見通しです。

次に、EUレベルでの調整された保健危機への対応を推進するために、以下のような点において、欧州医薬品庁(EMA)の権限が強化されるとしています。

  • 重要な医薬品・医療機器不足のリスクの監視および低減
  • このような危機を引き起こす病気を治療、予防または診断する可能性のある医学に関する科学的アドバイスの提供
  • ワクチンの効果および安全性を監視する研究の調整
  • 臨床試験の調整

なお、欧州委員会は、EUレベルで国境を越えた保健脅威に対応する「保健緊急対応局(HERA)」構想の要素を設定し、2021年末までに提案するとしています。

当該記事が関係機関に及ぼすと考えられる影響

医療機関

・日本国内でも、公衆衛生行政機関や保健医療研究チームが、COVID-19に係る疫学サーベイランス・プロジェクトを実施しているが、このようなプロジェクトの実施主体や協力医療機関などは、国境を越えたサイバー攻撃の標的となっており、各国当局より注意喚起が発出されている。COVID-19に係る疫学データを収集・提供する医療機関は、事業継続管理(BCM)やレジリエンス/強靭性の観点の観点から、データリスク管理やインシデント対応体制について見直すと同時に、EU域内におけるサイバーセキュリティのベストプラクティス動向を注視しておく必要がある。
 

医療機器メーカー/医療品メーカー

・今後、「欧州保健連合」の構築に向けて、欧州疾病予防管理センター(ECDC)、欧州医薬品庁(EMA)、欧州サイバーセキュリティ庁(ENISA)など、既存のEU機関及び各国当局の間の相互連携が進むことが想定される。欧州市場向けにCOVID-19関連製品・サービスを展開する企業は、臨床開発部門、市販後安全対策部門、品質保証部門、IT/セキュリティ管理部門、事業継続管理(BCM)部門など、「欧州保健連合」構築の影響が及ぶ可能性がある部門間で、当局対応の効率化に向けた部門横断的な連携・情報共有を検討すべきである。

サプライヤー

・欧州市場で、COVID-19に関わる医療機関や医療機器メーカー/医療品メーカー向けに製品・サービスを提供するICTサプライヤーは、「欧州保健連合」の構築に向けたEU機関及び各国当局の動きが、サイバーサプライチェーン・リスクマネジメントに及ぼす影響度を評価しながら業務の域内共通化/効率化に向けた改善を検討すべきである。

ライフサイエンス・ヘルスケアに関する海外サイバーセキュリティニュース

デロイト トーマツ グループのサイバーセキュリティチームでは、ライフサイエンス・ヘルスケア業界に向け、海外の規制情報やそれに伴う関係業界への影響について情報提供しています。(不定期刊行)

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