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令和3年度第2四半期決算における税務上の留意点

月刊誌『会計情報』2021年10月号

デロイト トーマツ税理士法人 公認会計士 崎原 充徳、デロイト トーマツ税理士法人 西野 拓

令和3年度第2四半期決算においては、主に令和3年度税制改正の内容が初めての適用を迎える。令和3年度税制改正においては、産業競争力強化法改正により創設された事業適応計画の認定を受けた法人について、デジタルトランスフォーメーション(以下「DX」)投資促進税制や繰越欠損金の控除上限の臨時措置が創設されたほか、研究開発税制、賃上げ・投資促進税制についての改正等が行われた。本稿では、これらのうち、主要な事項についての解説を行う。

968KB, PDF ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。

1. DX投資促進税制の創設

(1)概要

産業競争力強化法の改正と共に、新商品開発や新生産方式・販売方式の導入により新需要開拓や生産性向上に全社を挙げて取り組む企業が提出する「事業適応計画」を認定する仕組みが創設されたことに伴い、本計画により取得されるクラウド型システムを対象とする税制措置が創設された(措法42の12の7①②、68の15の7①②)。

具体的には、同法の改正法の施行の日(令和3年8月2日)から令和5年3月31日までの間に、その事業適応計画に従って実施される情報技術事業適応の用に供するためにソフトウエアの新設若しくは増設をし、又はその情報技術事業適応を実施するために必要なソフトウエアの利用に係る費用(繰延資産となるものに限る)の支出をした場合に、一定の特別償却又は税額控除が認められることになった。

(2)適用対象になる場合

当該税制措置の具体的な対象法人及び対象資産の内容は、以下のとおりとされている。

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(3)措置の内容

上記(2)に該当する場合には、その取得価額に応じて以下の特別償却又は税額控除の適用を受けることが出来るとされる。

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2. 繰越欠損金の控除上限の臨時措置

(1)概要

産業競争力強化法の改正を前提に、コロナ禍による欠損金については、一定期間に限り、DXやカーボンニュートラル等、事業再構築・再編に係る投資に応じた範囲において、所得の最大100%までの控除を可能とする特例が設けられた(措法66の11の4、68の96の2、産業競争力強化法2⑫・21の28①)。

現行制度においては、青色申告書提出法人の繰越欠損金は10年間繰り越され、その欠損等控除前所得の50%相当額を上限として控除することができる(中小法人や新設法人等の一定の法人については100%)(法法57①、⑪)。

この欠損等控除前所得の50%相当額の控除上限について、臨時措置として、対象法人の適用事業年度において特例対象欠損金額がある場合には、その特例対象欠損金額については、欠損等控除前所得の金額の最大100%を上限として損金算入できることとされる。

(2)適用対象になる場合

当該臨時措置の適用対象になる場合は次の場合とされている。

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(3)措置の内容

特定事業年度に生じた青色欠損金額については、欠損金の繰越控除前の所得の金額の100%(その所得の金額の50%を超える部分については、累積投資残額(※)に達するまでの金額に限る)の範囲内で損金算入できることとされる(措法66の11の4)。

(※)累積投資残額:事業適応計画に従って行った投資の額から、既に本特例により欠損金の繰越控除前の所得の金額の50%を超えて損金算入した欠損金額に相当する金額を控除した金額をいう。

特例適用後の控除上限は、次の図のようになる。

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3. 研究開発税制の見直し

(1)試験研究費の総額に係る税額控除制度の見直し

試験研究費の総額に係る税額控除制度について、以下のとおり見直しが行われた(措法42の4①②)。税額控除率の算式について、研究開発投資の増加インセンティブをより強化するよう、次のとおり、控除率カーブの見直し及び控除率の下限の引下げが行われている。また、新型コロナウイルス感染症の拡大により収益が低迷する企業がある中、国全体としての研究開発投資を増加させる観点から、厳しい経営環境にあっても研究開発投資を増加させている企業の控除上限を引き上げる措置が創設された(措法42の4③三)。改正内容は下表のとおりであり、改正項目①~③については以下の説明を参照されたい。

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(2)中小企業技術基盤強化税制に係る税額控除制度の見直し

中小企業者等に対して適用される、中小企業技術基盤強化税制に係る税額控除制度についても、上記(1)と同様の趣旨により、次のとおり控除率カーブの見直しが行われた(措法42の4④⑤)。また、厳しい経営環境にあっても研究開発投資を増加させている企業の控除上限を引き上げる措置も、上記(1)と同様に導入されている(措法42の4⑥三)。改正内容は下表のとおりであり、改正項目①~③については以下の説明を参照されたい。

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(3)試験研究費の範囲の見直し及び明確化

DXを促進する等の観点から、研究開発税制の対象となる試験研究費について、以下の見直しが行われた(措法42の4⑧一)。

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(4)特別試験研究費の額に係る税額控除制度の見直し

特別試験研究費の額に係る税額控除制度(オープンイノベーション型制度)について、以下の改正が行われた。

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4. 賃上げ・投資促進税制の見直し(人材確保等促進税制・所得拡大促進税制)

(1)人材確保等促進税制

1)概要

従来の賃上げ・投資促進税制の適用要件について、新規雇用者の給与等支給額の増加に着目した内容に見直された(措法42の12の5①)。

具体的には、令和3年4月1日から令和5年3月31日までの間に開始する各事業年度に、青色申告書提出法人が国内新規雇用者に対して給与等を支給する場合において、新規雇用者給与等支給額の前期の新規雇用者給与等支給額に対する増加割合が2%以上であるときは、控除対象新規雇用者給与等支給額の15%の税額控除ができる制度に変更された。改正内容は下表のとおりである。

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2)その他留意事項

本税制の賃上げ要件の見直しが行われ、継続雇用者(当期・前期の各月全てに給与等の支給を受けた一定の国内雇用者)」の抽出は不要となった。しかし、大企業に係る税額控除制度の適用除外措置(詳細は、「7.大企業についての一定の租税特別措置の停止措置の延長」参照)の判定においては、引き続き、継続雇用者給与等支給額にかかる要件が残っており、場合によっては継続雇用者の抽出が必要となるため、注意が必要である。

3)適用関係

令和3年4月1日から令和5年3月31日までの間に開始する各事業年度において適用される。

(2)所得拡大促進税制(中小企業者等のみ)

1)概要

中小企業者等における所得拡大促進税制について、次の見直しが行われた上、その適用期限が2年延長された(措法42の12の5②)。

a)適用要件のうち、継続雇用者給与等支給額の前期の継続雇用者給与等支給額に対する増加割合が1.5%以上であることとの要件を、雇用者給与等支給額の前期の雇用者給与等支給額に対する増加割合が1.5%以上であることとの要件に見直される。

b)税額控除率が25%となる要件のうち、継続雇用者給与等支給額の前期の継続雇用者給与等支給額に対する増加割合が2.5%以上であることとの要件を、雇用者給与等支給額の前期の雇用者給与等支給額に対する増加割合が2.5%以上であることとの要件に見直される。

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2)その他留意事項

中小企業者等では人材確保等促進税制の適用も可能であるため、人材確保等促進税制の適用要件も充足する場合には、上乗せ要件も考慮した上、人材確保等促進税制と所得拡大促進税制による税額控除のどちらが有利になるか別途検討が必要である。

3)適用関係

令和3年4月1日から令和5年3月31日までの間に開始する各事業年度において適用される。

 

5. 株式対価M&Aを促進するための措置の創設

(1)概要

令和元年12月に公布された改正会社法により、株式交付制度が創設され、令和3年3月1日から施行された。この株式交付とは、株式会社が他の株式会社(以下「対象会社」)を子会社とするために、その株式を譲り受け、対価として自社株式を交付することをいう(会社法2三十二の二)。

当該株式交付制度の創設を受け、自社株式を対価とするM&Aにおいて、対象会社の株主における譲渡損益を繰り延べる税制措置が、従来の産業競争力強化法に基づく特例措置から会社法の株式交付制度に基づく恒久的措置へと、以下のとおり整理された。

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(2)株式譲渡損益の繰延べ

対象会社の株主である法人が、会社法の株式交付により、その有する対象会社株式を譲渡し、買収会社(以下「株式交付親会社」)の株式等の交付を受けた場合には、その譲渡した対象会社株式の譲渡損益の計上は繰り延べることとされた(措法66の2の2①、68の86①)。なお、個人株主についての所得税についても同様とされた。

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  • 本繰延措置の適用は、対価として交付を受けた資産の価額のうち株式交付親会社の株式の価額の割合が80%以上である場合に限られる。この場合において、株式交付親会社の株式以外の資産の交付を受けたときは、株式交付親会社の株式に対応する部分のみ譲渡損益の計上を繰り延べられる(措法66の2の2①、68の86①)。

(3)添付書類

株式交付親会社は確定申告書に以下の書類を添付することとされた。

  • 株式交付計画書(法規35五)
  • 株式交付に係る明細書(当該株式交付子会社の株主に対して交付した株式その他の資産の数又は価額の算定の根拠を明らかにする事項を記載した書類を含む)(法規35六)

(4)外国法人に対する適用

外国法人が株式交付子法人(対象会社)の株主である場合における本措置の適用については、その外国法人の恒久的施設において管理する株式に対応して株式交付親会社の株式の交付を受けた部分に限られる(措令39の10の3①)。

(5)適用

本改正は、令和3年4月1日以後に行われる株式交付に適用される(令和3年改正法附1、53、54、69、70)。

 

6. カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の創設

(1)概要

「2050 年カーボンニュートラル」という高い目標に向けて、産業競争力強化法の認定事業適応計画(エネルギー利用環境負荷低減事業適応に関するものに限る。)に基づき導入される、生産プロセスの脱炭素化に寄与する設備や、脱炭素化を加速する製品を早期に市場投入することでわが国事業者による新たな需要の開拓に寄与することが見込まれる製品を生産する設備に対して、税制上の支援措置が創設された(措法42の12の7③⑥、68の15の7③⑥)。

具体的には、同法の改正法の施行の日(令和3年8月2日)から令和6年3月31 日までの間に上記計画に記載された生産工程効率化等設備又は需要開拓商品生産設備の取得等をした場合に、一定の特別償却又は税額控除が認められることになる。

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(2)適用対象になる場合

当該税制措置の具体的な対象法人及び対象資産の内容は、以下のとおりとされている。

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(3)措置の内容

上記(2)に該当する場合には、その取得価額に応じて以下の特別償却又は税額控除の適用を受けることができるとされる。

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7. 大企業についての一定の租税特別措置の停止措置の延長

平成30年度税制改正により導入されていた、大企業についての一定の租税特別措置の停止措置について、以下の見直しが行われ、また、適用期限が3年延長された(措法42の13⑥)。

  • 対象にDX投資促進税制の税額控除及びカーボンニュートラルに向けた投資促進税制の税額控除が加えられる
  • 継続雇用者給与等支給額が継続雇用者比較給与等支給額を超えることとの要件を判定する場合に、雇用調整助成金及びこれに類するものを控除しないこととされる

この一定の租税特別措置の停止は、「ムチ税制」とも呼ばれ、一定の要件を満たさない大企業について、対象となる租税特別措置が適用できないこととされるものである。具体的には、大企業が、前期比で所得が増加しているにもかかわらず、賃上げや設備投資に積極的でないと判定される場合には、その事業年度については、研究開発税制その他の一定の税額控除を適用できないこととされている。

この適用期限は改正前は令和3年3月31日までに開始する事業年度とされていたが、これが3年延長され、停止対象にDX投資促進税制の税額控除及びカーボンニュートラルに向けた投資促進除及びカーボンニュートラルに向けた投資促進税制の税額控除が加えられた。

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8. 中小企業事業再編投資損失準備金制度の創設

経営資源の集約化によって生産性向上等を目指す中小企業が、中小企業の株式の取得後に簿外債務、偶発債務等が顕在化するリスクに備えるべく、準備金を積み立てたときは、損金算入を認める措置が講じられた(措法55の2①)。

具体的には、青色申告書を提出する中小企業者のうち産業競争力強化法の改正法の施行日(令和3年8月2日)から令和6年3月31日までの間に中小企業等経営強化法の経営力向上計画(事業承継等事前調査に関する事項が記載されたものに限る)の認定を受けたものが、その認定に係る経営力向上計画に従って他の法人の株式等の取得をし、かつ、これをその取得の日を含む事業年度終了の日まで引き続き有している場合において、その株式等の価格の低落による損失に備えるため、その株式等の取得価額の70%以下の金額を中小企業事業再編投資損失準備金として積み立てたときは、その積み立てた金額は、その事業年度において損金算入できることとされた。

なお、株式を取得した事業年度において積み立てた準備金は、その株式等の全部又は一部を有しなくなった場合その株式等の帳簿価額を減額した場合等において取り崩すほか、その積み立てた事業年度終了の日の翌日から5年を経過した日を含む事業年度から5年間でその経過した準備金残高の均等額を取り崩して益金算入する。

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9. 中小企業者関係等

(1)中小企業経営強化税制について対象の追加と適用期限の2年延長

中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除制度(中小企業経営強化税制)について、関係法令の改正を前提に特定経営力向上設備等の対象に計画終了年度に修正ROA又は有形固定資産回転率が一定以上上昇する経営力向上計画(事業承継等事前調査に関する事項が記載されたものに限る)を実施するために必要不可欠な設備を加えた上、その適用期限が2年延長された(措法42の12の4①)。

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(2)地域未来投資促進税制の一部見直しと適用期限の2年延長

地域経済牽引事業の促進区域内において特定事業用機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除制度(地域未来投資促進税制)について、次の見直しが行われた上、その適用期限が2年延長された(措法42の11の2)。

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(3)特定事業継続力強化設備等の特別償却制度についての一部見直し

特定事業継続力強化設備等の特別償却制度(中小企業防災・減災投資促進税制)について、次の見直しが行われた(措法44の2)。

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(4)中小企業投資促進税制の見直しと適用期限の2年延長

中小企業投資促進税制について、次の見直しが行われた上、その適用期限が2年延長された(措法42の6)。

a)対象となる指定事業に次の事業が加えられる。

イ)不動産業

ロ)物品賃貸業

ハ)料亭、バー、キャバレー、ナイトクラブその他これらに類する事業(生活衛生同業組合の組合員が行うものに限る)

b)対象となる法人に商店街振興組合が加えられる。

c)対象資産から匿名組合契約等の目的である事業の用に供するものが除外される。

(5)特定中小企業者等が経営改善設備を取得した場合の特別償却又は税額控除制度の廃止

特定中小企業者等が経営改善設備を取得した場合の特別償却又は税額控除制度(商業・サービス業・農林水産業活性化税制)は、適用期限である令和3年3月31日の到来をもって廃止された。

(6)中小企業者等の法人税の軽減税率の特例の適用期限の2年延長

中小企業者等の法人税の軽減税率として、所得年800万円以下の部分について19%とされている。改正前において、時限立法として、租税特別措置法によりさらに15%に引き下げられている。その適用期限が2年延長された(措法42の3の2)。

 

10. 外国子会社から受ける配当等の額に係る外国源泉税等の額の取扱い

外国子会社合算税制が適用される場合の配当等の額に係る外国源泉税の取扱いについて、適正化が図られた。

  • 内国法人が外国子会社から受ける配当等の額に係る外国源泉税等の額の取扱いについて、次の見直しが行われた

▶ 配当等の額のうち、外国子会社配当益金不算入制度の適用を受ける部分の金額に係る外国源泉税等の額の損金算入について、外国子会社合算税制との二重課税調整の対象とされる金額に対応する部分に限ることとされた(次の表の【*】部分)(措法66の8⑯)

▶ 配当等の額のうち、外国子会社配当益金不算入制度の適用を受けない部分の金額に係る外国源泉税等の額の外国税額控除について、外国子会社合算税制との二重課税調整の対象とされない金額に対応する部分につきその適用が認められた(次の表の【**】部分)(法令142の2⑧一)

▶ 特殊関係株主等である内国法人に係る外国関係法人に係る所得の課税の特例(いわゆる「コーポレート・インバージョン対策合算税制」)について、上記と同様の見直しが行われた(措法66の9の4⑭、法令142の2⑧三・四)

▶ その他所要の措置が講じられた

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以上

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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