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「世界を良くするインフラ」

~インフラ開発・投資が世界の発展や人々の幸福に貢献する方法とは~ Financial Advisory Topics 第24回

英国エコノミスト・グループ傘下の調査機関エコノミスト・インパクトは、デロイトとデューク大学ニコラス・エネルギー環境研究所の支援のもと、"Infrastructure for Good"「世界を良くするインフラ」(IFG)というプログラムを開始しました。本稿では、このIFGの概要について、主に英語レポートのエグゼクティブサマリー等に記された主要な内容を中心に和訳、編集する形で、その概要について紹介します。

インフラに関するより良い意思決定を可能にする

英国エコノミスト・グループ傘下の調査機関エコノミスト・インパクトは、デロイトとデューク大学ニコラス・エネルギー環境研究所からの支援のもと、Infrastructure for Good(「世界や社会を良くするためのインフラ」との意味。以下、「IFG」と表記する。)というプログラムを開始した。このプログラムは、世界におけるインフラ開発・投資に関する世界初の研究イニシアティブであり、"スマート"で責任あるインフラの広範囲にわたる利益について認識を広め、インフラ開発・投資における“Good” とはどのような状態であるかを定義するとともに、インフラに関するより良い意思決定を可能にするためのロードマップを作成することを目的としている。本稿では、このIFGの概要について、主に英語レポート*のエグゼクティブサマリー等に記された内容を中心に和訳・要約し、その概要について紹介したい。

* Economist Impact “Infrastructure for Good - Building for a better world”
https://impact.economist.com/projects/infrastructure-for-good/TEI_Deloitte_Infrastructure_for_Good_Key_Findings_Report.pdf

Infrastructure for Good
(出所)Infrastructure for Good

インフラは経済成長および社会的発展において最も効果的な投資の一つである。コミュニティとコミュニティをつなぐ役割から、生活に電力を供給する機能まで、インフラは健康的で持続可能な世界の社会基盤となっている。また、インフラはGDPへの長期的なプラス効果が証明されており、ほぼ全てのSDGs(持続可能な開発目標)にも関係しているといえる。さらには、インフラが提供する様々なサービスは、強靭な社会とコミュニティの形成にとっても必要不可欠なものであるともいえる。

近年、世界中の多くの国がインフラ投資を増加させてきている。しかしながら、現在の経済情勢に鑑みれば、インフラに係る支出が今後も持続的に増加していくという保証はどこにもない。長期的な観点での予測では2040年までに世界全体で最大5,000億米ドルのインフラ投資が不足することが示唆されている (下図1参照)。これは、最適な社会的、経済的、環境的成果を確保することの重要性を強調している。

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今後10年間に建設されるインフラは、潜在的に、次の世紀に向けて各国がどのように発展していくかを決定づけるものとなりうる。そのため、いうまでもなく、国々はより多くのインフラを必要としているのみならず、「良い」インフラを必要としているわけである。しかし残念ながら、インフラビジネスには時としてリスクと失敗が伴うことも事実である。仮にとても有益なプロジェクトであったとしても、それは予期せぬ悪影響をもたらす可能性がある。その他にも、画期的なインフラプロジェクトとして知名度は高いものの、社会的利益はほとんど得られないというケースもある。また、不十分な計画に基づくインフラは、日常的な汚染や強制移住、費用負担、完工の遅延等をもたらす可能性もあり、結果的に納税者に負債を負わせることにつながる。

 

IFGのバロメーターとは

では、IFGとはどのようなインフラであろうか。その定義を示したのが以下である。

IFGとは何か?

主要な社会的、経済的、環境的課題に対処しつつ、持続可能な方法で効率的で質の高いインフラ

  • Who(誰に):個人、コミュニティ、将来世代、環境に利益をもたらす。
  • What(何を):社会的影響、包摂と平等、経済的機会、持続可能性と強靭性などの成果を含む。
  • How(どのように):成功するためには、計画性、統制されたシステム、透明性、持続可能な資金調達が必要である。目的をもって経済成長を目指す。

 

本プログラムでは、新たに開発した「IFGバロメーター」を通じ、30カ国における重要な経済、社会および環境のニーズに対応する効率的で質の高いインフラを持続的に提供する能力をベンチマークし、インフラ・エコシステムの主要な側面を、次の5つの観点において評価している。

① ガバナンスと計画
② 持続可能な資金調達と投資
③ 社会とコミュニティへの影響
④ 経済的利益とエンパワーメント
⑤ 環境の持続可能性と強靭性

評価においては、社会、経済および環境を含んだ幅広いインフラによる影響を対象としている。IFGバロメーターはインフラにおける持続可能性をプロジェクトごとに評価する他の調査とは異なり、体系的な変化をもたらすために各国がいかに効果的な環境を構築するかに焦点を当てている。量的・質的指標を組み合わせ、国々の質の高いインフラを持続可能な形で提供する能力を測定し、主要な経済的、社会的、環境的課題に対処するために、どの程度インフラを有効活用しているかを評価するところを目的としている。

本プログラムの分析の結果得られた、IFGバロメーターに関する国ごとの順位は次のとおりである。


https://impact.economist.com/projects/infrastructure-for-good/TEI_Deloitte_Infrastructure_for_Good_Key_Findings_Report.pdf

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世界を良くするインフラとは

IFGプログラムで行われた検討や評価の詳細については、本編を参照いただきたいが、プログラムにおいて得られた結果として次の各点が示されているので、ここに共有したい。

  • 「ガバナンスと計画能力」においてスコアが高い場合には、インフラに必要な多くの基本的な基盤が整っていることが前提となっていることが多い。しかし社会、経済、環境のいずれの観点においても一貫した観点でインフラが価値を発揮していくためには、初期段階の参加型計画、効率的なプロジェクトの実施、資金調達可能なプロジェクトを育成するための制度的支援と透明性が必要になる。
  • 先進国市場は一般的に、インフラ投資、インフラ・環境の持続可能性・レジリエンスへのアクセスにおいて高いスコアを示している。しかし、目的主導型の開発を可能にするために不可欠な組織的調整や国家レベルでのニーズ評価という分野に関しては、遅れている市場もみられる。
  • 「社会とコミュニティへの影響」において低いスコアを示している場合には、計画の不備によることが多い。インフラがより包摂的で協調的であり、広く共有される利益を生み出すことを可能にするためには、より包括的な対策が必要である。しかしながら、戦略的な社会的評価や、ソーシャルインパクトの評価の実施を必須としている国は全体の4分の1未満であり、60%以上の国で地域社会との関わりは限定的である。
  • 「環境の持続可能性と強靭性」に関する状況は国によりまちまちである。多くの国が計画と戦略には注力しているにもかかわらず、これらを効果的なインフラ政策と成果に生かすことは成功していないといえる。いずれの国においても、生態系を保護し気候変動を緩和するための体系的な政策の検討に加えて、プロジェクトレベルでのモニタリングと強靭性を向上させる戦略にも重点を置く必要がある。
  •  ほとんどの国は、インフラから比較的多くの経済的利益を享受していることが示されているものの、多くの市場において、プロジェクト実施と投資の課題のために成果の発現が遅れることも多い。先進国では、強固なインフラネットワークによって高い国際競争力を有しているが、新興市場は、インフラの接続性が低く競争力の点で遅れをとっている。しかし、例えば、再エネ分野を中心とした新たなインフラ投資の結果として、雇用創出率が上昇している国もある。
  • インフラ投資に係る資金ギャップは一般にヨーロッパ諸国で最も小さい。しかし、ほとんどの国ではインフラ開発について十分な資金を集めることに苦労しており、特に社会的または環境的な利益を目的とするプロジェクトでは大きな課題となっている。多くの国は、社会的および環境的に意味のあるインフラへの投資を促進するための十分な制度的支援を提供していないといえる。これらの課題は、インフラの社会的利益がいかに必然的なものではなく、それを実現するために多くの努力を必要とするかを示している。
  •  IFGの取り組みは、インフラを単体として考えるのではなく、エコシステムの一部として捉えることでその効果をより発現させることができる。また、セクター間で相互に連携することにより二倍の効果をもたらすなど、一つの社会課題への対応が、その他の喫緊の社会的課題を解決する機会として利用することもできる。


多くの国は、投資を促進するための長年の努力の結果として、インフラ規制、計画、資金調達において効率的かつ効果的な政策を確立している。近年の投資の急増は、インフラ整備の強化が極めて重要な優先事項であることも示している。しかし、不十分な点も指摘されており、改善が必要とされる重要な分野も少なくない。この意味において、IFGバロメーターはパフォーマンスの順位付けであると同時にロードマップである。良い成果を出している国々から学び、改善が必要な領域を明らかにする手段である。政策立案者から各産業の専門家、民間投資家や開発者に至るまで、インフラ業界全体の参加者は、このツールを使用して根拠に基づく見解を見つけることで、実践的な意思決定を行うことができるようになる。IFGバロメーターは、先進国と新興国のいずれにおいても、インフラがSDGsへの世界的な進展を全面的に支援するための、長いミッションの第一歩となることが期待される。

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