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海運業界に関連する平成29年度税制改正大綱の主要事項

今回は、平成29年度税制改正大綱から海運業界を念頭に置いた法人税の主要事項についてまとめています。中でも関心が高いと思われる外国子会社合算税制については、仕組船会社が本改正後においても会社単位の合算課税の対象とされることが見込まれるため、本改正で海運業界が受ける影響は、仕組船会社以外の一定の外国子会社と、改正後の法律に沿った申告手続き(新別表への対応等)に対して生じるものと想定されます。

平成28年12月8日に与党より公表された平成29年度税制改正大綱のうち、海運業界を念頭に置いた法人税の主要事項は以下の通りとなります。なお、本稿に含まれる意見は執筆者の私見であること申し添えます。

1. 外国子会社合算税制(措法66の6他)

【1】概要

海運業界では、パナマ、リベリアなど現地において法人所得税が課されない国に子会社(孫会社以下も含む。)として仕組船会社を設置し、当該仕組船会社から傭船する形で業務を行っている場合が多く、わが国の法人税の計算では、これらの仕組船会社は特定外国子会社等に該当し、当該特定外国子会社等に係る一定の所得を親会社である内国法人の所得とみなすいわゆる合算課税が行われています。この現行の制度では、外国子会社の租税負担割合が一定以上であれば、経済実体を伴わない外国子会社の所得であっても一律・自動的に合算せず申告も求めない一方、一定の航空機リース事業等、実体ある事業から得た所得であっても会社単位で合算課税してしまう場合があるという問題点がありました。そこで平成29年度税制改正では、このタックスヘイブン対策税制について、「外国子会社の経済実態に即して課税すべき」との「BEPSプロジェクト」の基本的考え方を踏まえ、経済実体がない、いわゆる受動的所得は合算対象とする一方で、実体ある事業からの所得であれば、子会社の税負担率にかかわらず合算対象外とする改正が行われることとなりました。もっとも、海運業界における前述の仕組船会社については、下記「【2】主な改正」に記載する外国関係会社のうち、ペーパーカンパニー等に該当し、かつ、租税負担割合が通常30%未満であると見込まれることから、本改正後においても、改正前と同様に会社単位で合算課税されることとなり、従って本改正により海運業界が受ける影響は、仕組船会社以外の一定の外国法人と、改正後の法律に沿った申告手続き(新別表への対応等)に対して生じるものと想定されます。

【2】主な改正

項目

内容

合算対象とされる
外国法人の判定等

外国関係会社が特定外国子会社等に該当するかどうかを判定するための租税負担割合基準を廃止すること等、合算対象とされる外国子会社の範囲について改正が行われる。この改正により特定外国子会社等の定義がなくなり、新たに定義される外国関係会社のうち一定の要件に該当するものが本改正後における合算課税の対象となる。

外国関係会社に該当する場合の合算課税の適用関係

外国関係会社に該当する場合の合算課税の適用関係は以下の通りとなる。

(1) ペーパーカンパニー等
外国関係会社が「ペーパーカンパニー」、「事実上のキャッシュボックス」及び「ブラックリスト国所在法人」(以下「ペーパーカンパニー等」という。)に該当するか否かにより、それぞれ以下の取り扱いとなる。

【1】ペーパーカンパニー等に該当する場合
 租税負担割合に応じて、それぞれ以下の取り扱いとなる。

〈1〉租税負担割合が30%以上の場合
  合算課税の適用対象外となる

〈2〉租税負担割合が30%未満の場合
  会社単位の合算課税の対象とされる

【2】ペーパーカンパニー等に該当しない場合
租税負担割合に応じて、それぞれ以下の取り扱いとなる。

〈1〉租税負担割合が20%以上の場合
  合算課税の適用対象外となる

〈2〉租税負担割合が20%未満の場合
  下記(2)経済活動基準による判定を行う

(2) 経済活動基準
本改正では、適用除外基準を経済活動基準(事業基準、実体基準及び管理支配基準、所在地国基準)と改め、この経済活動基準に係る全ての 要件を満たすか否かによって、それぞれ以下の取扱いとなる。

【1】経済活動基準に係る全ての要件を満たす場合
会社単位の合算課税の適用は免除されるが、下記(3)部分合算課税の判定を行う

【2】経済活動基準に係るいずれかの要件を満たさない場合
会社単位の合算課税の対象とされる

(3) 部分合算課税
経済活動基準に係る全ての要件を満たす場合には、以下のいずれかの要件を満たす場合を除いて、一定の受動的所得について部分合算課税の対象とされる。


 ●当該外国関係会社の租税負担割合が20%以上である場合
 ●部分合算課税に係る収入金額が2,000万円以下(現行:1,000万円以下)又は所得金額が税引前利益の5%以下(現行と同様)である場合

書類等の提出等がない場合の推定

経済活動基準を満たすこと・ペーパーカンパニー等に該当しないことを明らかにする書類等について、国税当局の当該職員から提出することを求められた場合に、その提出期限までに提出等がない場合は、これらの要件を満たさないものと推定されることとされる。

財務諸表の添付

内国法人は、次に掲げる外国関係会社の財務諸表等を確定申告書に添付しなければならない。

 ●租税負担割合が20%未満の外国関係会社
 ●租税負担割合が30%未満の特定の外国関係会社 

適用時期

外国関係会社の平成30年4月1日以後開始事業年度から適用

2. トン数標準税制(措法59の2他)

トン数標準税制について、次の見直しを行う。

項目

内容

適用対象法人

平成32年3月31日までに日本船舶・船員確保計画について認定を受けた対外船舶運航事業を営む法人(現行:平成26年3月31日までに計画認定を受けた法人)に対して適用できることとする。

対象となる準日本船舶の範囲

準日本船舶に、本邦船主の子会社が所有する一定の要件を満たした外国船舶を加える。

取戻し課税要件

取戻し課税の要件(日本船舶・船員確保計画に係る認定の取消し)の前提となる勧告をしない正当な理由に、歴史的海運不況が含まれることを明確化する。

計画認可の要件

日本船舶・船員確保計画において日本船舶及び船員の確保の目標として記載すべきその計画期間における日本船舶の隻数の増加の割合を120%(現行:220%)以上とする等の所要の見直しを行う。


 

3. 特定設備等(船舶)の特別償却(措法43他)

船舶の特別償却制度について、次の見直しを行う。

項目

内容

対象資産
(内航船舶)

電気推進船に準ずる環境性能を有する船舶の要件につき、航海支援システムを有することを加えた上、推進効率改良型プロペラ等を有することとの選択とするとともに、環境への負荷の低減に係る要件の見直しを行う。

対象資産

(外航船舶)

環境への負荷の低減に係る要件の見直しを行う。

適用期限

平成31年3月31日まで(2年延長)

4. 特定船舶に係る特別修繕準備金(措法57の8他)

特定船舶に係る特別修繕準備金について、次の見直しを行う。

項目

内容

船舶の範囲

トン数標準税制の適用を受ける法人が所有する日本船舶及びその法人の子会社が所有する外国船舶を除外する。

 

5. 特定資産の買換えの場合等の課税の特例(措法65の7他)

特定資産の買換えの場合等の課税の特例のうち、船舶から船舶への買換えについて、次の見直しを行う。

項目

内容

漁船に係る措置

所要の経過措置を講じた上で、適用期限の到来をもって対象から除外する。

譲渡資産
(外航船舶)

譲渡資産からトン数標準税制の適用を受ける法人が所有する日本船舶及びその法人の子会社が所有する外国船舶を除外する。

譲渡資産
(港湾の作業船)

港湾の作業船について、譲渡資産に係る船齢要件を40年未満(現行:45年未満)に引き下げる。

買換資産
(内航船舶)

買換資産のうち総トン数が2,000トン以上の内航船舶について、環境への負荷の低減に係る要件の見直しを行う。

適用期限

平成32年3月31日まで(3年延長)

 

 

以上 

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