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トレンドから見るスポーツスポンサーシップ

スポーツビジネスにおけるスポンサーシップモデルの変化

2015年にスポーツ庁が創設され、2016年の日本再興戦略においてスポーツが初めて政府の成長戦略の中に組み込まれるなど2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催を契機とし、スポーツ産業への注目が高まっています。 国民・民間企業におけるスポーツ関連消費や投資マインドの向上を図り、スポーツ市場規模の拡大が目指されているなか、これまでとは異なるモデルのスポンサーシップが主流となりつつあります。ますます重要度が高まると考えられるスポーツビジネスにおけるスポンサーシップについて解説します。

I.はじめに

2015年にスポーツ庁が創設され、2016年の日本再興戦略においてスポーツが初めて政府の成長戦略の中に組み込まれるなど2020年東京オリンピックの開催を契機とし、スポーツ産業への注目が高まっている。政府の成長戦略では、スポーツ市場規模を2020年に10兆円、2025年に15兆円へ拡大することを目指しており、国民および民間企業におけるスポーツ関連消費や投資マインドの向上が図られると共に、スポーツにおけるスポンサーシップがますます重要になってくると考えられる。

そこで今回は、スポーツビジネスにおけるスポンサーシップに関する特徴について解説する。

II.スポンサーシップ

スポーツにおけるスポンサーシップはオリンピックやサッカーワールドカップなどの大きなイベントを中心に行われていたが、1984年のロサンゼルスオリンピックを境に大きく変わっている。

ロサンゼルスオリンピック以前の1976年のモントリオールオリンピック収支は約1,200億円を超える赤字であり、1980年のレークプラシッド冬季オリンピックではオリンピック組織委員会が破産するなど、スポンサーシップがうまく活用されていなかった。それをロサンゼルスオリンピックではスポンサーを1業種1社に独占的に与えることとし、スポンサー料の引き上げを図ったことで、アメリカ、カリフォルニア州、ロサンゼルス市が税金を使うことなく黒字を達成し、スポンサーシップの活用が有効であることが認識された。また、このロサンゼルスオリンピックでは放映権に関しても1社に独占的に与えたことで、メディア価値が高まった。

このロサンゼルスオリンピック以降、独占的なスポンサー権という構造構築により、それまで外から見えにくかったオリンピックというイベントの価値が可視化され、スポンサーシップの価値が高まった。その結果、企業はスポーツイベントやチームに多額のスポンサー料を支払い、スポンサーとなることで、スポンサー権利の大きな特徴の一つである露出による認知度の向上や、それによる企業ブランドのイメージ向上を図るという構造が誕生したのである。

III.スポンサーシップ目的の変化

ロサンゼルスオリンピック以降、露出による認知度向上を目的としてスポンサーシップを活用してきたスポンサー企業であるが、2012年のロンドンオリンピックあたりからスポンサー企業の取組み方に変化が見られる。スポンサー企業において企業名や商品のロゴが露出するスポンサーシップから企業の経営課題を解決する投資としてのスポンサーシップに位置付けが変わってきているのである。

このような単なる認知度向上を目的とするスポンサーシップを投資的位置付けに変えていくようなコミュニケーション活動をスポンサー・アクティベーションと呼ぶ。スポンサーとしての諸権利を有効活用して経営課題の解決等によりスポンサー企業の価値を向上させる活動であり、これまでのスポンサー活動とは異なる新しいタイプのスポンサーシップである。

今までの多くのスポンサー企業は認知度向上のため広告宣伝費としてスポンサーシップを活用してきたが、スポンサー・アクティベーションにより直近では、スポンサーシップによって得られる各種権利を有効活用することで認知度向上のみならず、マーケティング活動や営業活動等を実施していくことまでもスポンサーシップの範囲に含まれつつある。今後はスポンサーシップによって得られる各種権利を有効活用した、スポンサー企業各社の独自活動を具体化する動きが活性化してくると考えられる。

スポンサーシップの機能補完
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TVがメディアの主体であった時代から、多種多様なデバイスを介したデジタルメディアが主体となってきている現在では、従来の視聴率という単一指標のみではリーチ先に対してどのくらいの露出効果があるか明確ではなく、単に認知度の向上を目的にスポンサー企業が多額の投資を実施することは難しい。そのため、スポンサー企業はスポーツイベント等へのスポンサーシップによって露出だけではない、企業自身の経営課題の解決方法としての価値に注目が移ってきていると考えられる。

一方で留意しなければならないのが、このスポンサー・アクティベーションの最大の特徴は、企業がスポンサー料を支払うのみではなく、スポンサーとしての権利を活用し、別途スポンサー・アクティベーションに追加的な費用をかけることで初めて効果を発揮できるということである。

ただし、スポーツビジネスのスポンサーシップの現状をみると、スポンサーシップの売手であるイベント主催者や各スポーツ団体とスポンサー企業との間では、このアクティベーションを意識したスポンサーシップに関して双方に意識のギャップがあると思われる。

例えば、イベント主催者や各スポーツ団体は、未だに広告露出のみを重視したスポンサーシップを意識しており、より価値の高い権利を創造して、スポンサー企業のスポンサーシップ活動をより大きなレベルで引き出すことができていないように思われる。対するスポンサー企業側も、自らが獲得した権利を追加的な費用をかけてさらに活用していくという意識が十分に認識されていないように思われる。

今後、スポンサーシップの売手であるイベント主催者や各スポーツ団体と、買手であるスポンサー企業との間の認識をさらに合わせていく必要がある。

 

IV. 事例

ガンバ大阪×パナソニック

  • ガンバ大阪がホームスタジアムである市立吹田サッカースタジアム(2016年開場)に対し、ガンバ大阪のユニフォームの胸スポンサーであるパナソニックはLED投光器、太陽光発電システム、避難誘導システム、スタジアムサイネージ、マルチアングルWi-Fiライブ映像ファンサービス等の数多くの自社製品を導入した。
  • まぶしすぎないLEDを活用した選手への配慮、安全にスタジアムのどこにいても楽しめるコンテンツを提供する観客への配慮など、自社の製品を「売る」というよりは、「多くの人に喜んでもらえる環境を提供するためのサポート」という印象を付与している。
ガンバ大阪×パナソニックの事例
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東京マラソン×Dole

  • 2008年より東京マラソンに協賛し、公認バナナ「スポーツバナナ」としての販売や、自動販売機を活用した販売等、マーケティング活動の権利をスポンサーシップで獲得し活用した。
  • 他社ブランドとの差別化を図るため、バナナがスポーツに適した栄養価を含むことをハイライトし、認知度を上げ、自社のブランドを競合ブランドから際立たせることを目標とした。
  • 「東京マラソン2015」では、バナナの無償提供に加え、世界初“食べられるウェアラブルデバイス”、「ウェアラブルバナナ」を開発。完走タイム、心拍数等を表示するよう設計。ウェアラブルバナナが高い話題性を獲得することで、ドールバナナの認知拡大も図った。
東京マラソン×Doleの事例
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V.おわりに

過去の経緯をみると、企業のスポンサーシップと言えば、ユニフォームやスタジアムなどに宣伝素材を散りばめ、露出を多くすることで認知度を向上することが主目的であった。しかし近年はそれだけにとどまらず、スポーツと企業の関係に変化が生まれており、スポンサー企業における経営課題解決のソリューションとしてのスポンサーシップへと変化してきている。

スポンサーシップの売手であるイベント主催者やスポーツ団体は、買手であるスポンサー企業の経営課題の解決に導くためのより高い権利の活用方法を提案するとともに、スポンサー企業からも売手に対して経営課題解決にむけたスポンサーシップの活用方法を提案するような、双方向からの取り組みが重要になってくる。

 

本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
スポーツビジネスグループ 川端一匡

(2017.03.27)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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