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個人が海外の資産を保有している場合の留意点 ~海外預金及び海外保険から生ずる所得に対する課税~

ファミリーコンサルティングニュースレター 2022年9月号

はじめに

個人が海外の財産を保有している場合には、保有期間中や後継者への承継時における所得税・贈与税・相続税・出国税等、税務の観点から各種の論点を確認する必要があります。

近年において、日本居住者である個人が資産運用の選択肢を海外に広げ、一部の財産を海外にシフトしていることがあり、海外における資産の運用益については、申告義務や税率に関し、日本にある財産とは異なる取扱いが適用される可能性があります。そこで、今月号では、日本居住者である個人が海外預金や海外保険等の海外の資産を保有している場合の留意点についてご紹介します。

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海外預金や海外保険等からの運用益に対する課税

1. 海外預金

日本居住者である個人が有する海外預金から生ずる利息等の運用収益は日本で課税されます。

国内預金に係る利息は、利息の支払い時に20.315%(住民税・復興特別所得税含む)の税率で源泉徴収され、課税関係が完結します。しかしながら、海外の銀行の国外口座において受領した利息は、原則として、日本において、所得税の確定申告をする必要があり(給与所得等以外の所得金額が20万円以下である場合等を除く)、利子所得として総合課税(最高税率:約55%)の対象となります。

なお、国外預金利息だけではなく、海外の金融商品や不動産等の収益財産を有する場合にも、原則として、運用収益は日本で課税されます。税率はその財産の種類や保有期間等により異なります。

2. 海外生命保険契約

海外の生命保険は運用利回りが高いことから、日本の富裕層でも契約を有している場合がありますが、保険業法等の関係で海外法人が契約当事者となっている場合もあり、課税関係に留意が必要となります。

(1) 海外の資産管理会社が契約当事者となる場合

日本居住者である個人や、その個人が受益者となる信託の受託者が設立した海外の資産管理会社1 の所得は、日本の外国子会社合算税制(後述)に関する検討が必要となります。例えば、海外の無税国に実態の乏しいペーパーカンパニーを設立した場合、そのペーパーカンパニーの所得は、日本の外国子会社合算税制の適用により、その株主である日本居住者の所得とみなされ、雑所得(最高税率:約55%)として課税される恐れがあります。

このような海外のペーパーカンパニーを契約当事者かつ受取人として生命保険契約をする場合、その資産管理会社が受ける死亡保険金のうち、差益部分は、日本の外国子会社合算税制の適用を受け、その株式を相続等により取得した日本居住者たる相続人の個人所得税上、雑所得として取り扱われる可能性があります。

なお、この場合において、海外ペーパーカンパニーの株式は保険金の入金により時価が高くなっていることが予想され、当該株式を相続する相続人において多額の相続税負担が別途生じる可能性がある点、併せて留意する必要があります。

1  この場合、受益者は、一定の例外的な信託を除き、受託者が保有している資産を受託者ではなく、受益者自らが持っているように取り扱われるため、個人が海外の資産管理会社を直接有する場合と同様の取扱いとなります(個人が海外の資産管理会社を有する場合の税務上の留意点の詳細は前号、ファミリーコンサルティングニュースレター 2022年7月号「個人が海外の資産管理会社を保有している場合の留意点 ー 外国子会社合算税制による雑所得課税」をご参照ください)。

(2) 日本居住者を受益者とする海外信託が保険契約の当事者となる場合

信託契約は、日本の税務上、受益者等課税信託(パススルー信託)と法人課税信託などに分けられます。海外の信託会社が保険契約の締結当事者となる場合で、その信託契約が日本の税務上、受益者課税信託(パススルー信託)と扱われるときは、原則として、受益者である日本居住者が個人として直接契約した場合と同様の課税関係になると思われます。

日本居住者である個人が生命保険に基づいて給付を受ける死亡保険金は、被保険者、保険料の負担者及び保険金受取人が誰であるかにより、課税関係が異なります。例えば、被保険者(契約者)及び保険料の負担者がいずれも被相続人であり、保険受取人が異なる(契約者のご家族等)場合には、所得税は課されず、みなし相続財産として相続税の課税対象となります。

なお、海外の信託がパススルー信託ではなく、法人課税信託と取り扱われる場合には、結論が異なります。いずれの信託に該当するかについては個別の事案ごとに、課税関係の詳細検討が必要と考えられます。
 



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3. 外国子会社合算税制の概要

外国子会社合算税制が適用される場合、外国法人が現地で獲得した所得につき、その株主である内国法人や日本居住者の所得とみなして、日本において合算課税が行われます(詳細については、前号をご参照ください)。

(1) 租税負担割合

後述する通り、租税負担割合により外国子会社合算税制の適用可否が変わります。租税負担割合は次のように計算されます。

本店所在地や他国において課される法人税等(非課税国外配当にかかる源泉税等を除く)+その他調整

本店所在地の税法により計算した所得+非課税所得(受取配当等を除く)+その他調整


(2) 対象となる外国法人

内国法人や日本居住者により50%超保有されている等の外国法人は、外国子会社合算税制の適用の対象となる可能性があります。

(ア) 租税負担割合が30%未満の外国に所在するペーパーカンパニー等の場合

租税負担割合が30%未満で、一定の基準を充足しないペーパーカンパニー等に該当する場合、会社単位の合算課税の対象となります。

そのため、個人が有する海外の会社がペーパーカンパニー等である場合、ペーパーカンパニー等で生ずる所得のすべてが、その株主である日本居住者個人の所得として課税されることとなります。

(イ) 租税負担割合が20%以上の場合(ペーパーカンパニー等以外の場合)

外国子会社合算税制の適用はありません。

(ウ) 租税負担割合が20%未満の外国関係会社で経済活動基準を満たさない場合

租税負担割合が20%未満の外国関係会社は経済活動基準(①事業基準、②実体基準、③管理支配基準、④非関連者基準/所在地国基準の4つ)を充足しない場合、会社単位の合算課税の対象となります(経済活動基準の詳細については、前号をご参照ください)。

そのため、個人が有する海外の会社の租税負担割合が20%未満で経済活動基準を満たさない場合、原則として、海外の会社で生ずる所得のすべてが、その株主である日本居住者個人の所得として課税されることとなります。

(エ) 租税負担割合が20%未満の外国関係会社で経済活動基準を満たす場合

個人が有する海外の会社の租税負担割合が20%未満で経済活動基準を充足する場合、一定の受動的所得(一定の配当、利子、為替差益等)のみ合算課税の対象となります。

CRS(共通報告基準)

税務当局による富裕層の国外財産の管理方法の一つとして、CRS(Common Reporting Standard)制度があります。

経済取引がグローバル化する中で、海外の金融口座を利用した国際的な脱税及び租税回避に対処するために策定されました。この制度には多くの国・地域が参加しており、参加国の税務当局はその国の居住者が有する他の参加国の金融機関の口座情報を入手することができます。つまり、原則として日本居住者の海外金融財産情報は日本の税務当局に捕捉されることとなります。日本の税務当局では、自主的な報告義務制度である国外財産調書や財産債務調書を補完する情報源として、全世界の金融財産及び所得が網羅的に申告されているかの確認に活用されています。

なお、国税庁が公表している「令和2事務年度における租税条約等に基づく情報交換実績の概要」(令和4年2月)によれば、令和2事務年度におけるCSR情報の受領した口座数(件)は約1.9百万件となります。

まとめ

日本居住者である個人が有する海外にある資産から生ずる運用益は、原則として日本において課税対象となるほか、国外財産調書への記載義務が生じる可能性がある点についても留意が必要となります。日本の税務当局はCRS制度により海外の金融口座情報を捕捉していることから、適正に税務申告を行っているか、再度確認することが推奨されます。

また、海外財産を有する個人に相続が生じ、相続人に当該海外財産を相続させるには、現地の法規制に基づき一定の手続きを行う必要がある場合があります。承継に際し、多額の労力やコスト(現地のアドバイザー費用、現地相続税等)が生じる可能性があるため、ご自身もしくはご家族が多額の海外財産を保有されている場合には、この機会にこれらの財産の承継プランニングを検討することをお勧めします。

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