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航空宇宙・防衛業界におけるサプライチェーンレジリエンスの構築・管理

国際社会の不安定化がもたらす新たな危機を乗り越える力

航空宇宙・防衛業界におけるサプライチェーンは、複雑な多数・多層構造であるため全体の透明性を維持することが極めて難しい。さらにグローバル化が進み、地理的に分断されているため、昨今のCOVID-19パンデミックやロシアのウクライナ侵攻のような世界的混乱への対応力が脆弱な傾向にある。同業界の企業がサプライチェーンレジリエンスを構築し、今後起こりうる社会的混乱を乗り切るために考慮すべきアプローチの方法を紹介する。

航空宇宙・防衛関連企業が強靭なサプライチェーンを構築・管理するために不可欠なこと

航空宇宙・防衛関連(以下、A&D)企業は数百~数千ものサプライヤから成る、多層的かつクモの巣状の複雑なネットワークの一部となっている。業界のサプライチェーンの代表例として、OEMのエコシステムの複雑性が挙げられる;

 

(1)開発生産フェーズにおいてサプライチェーンが多数・多層構造となっている

(2)保守・修理フェーズではサプライヤとは別の(又は一部同じ)MROプロバイダーが存在する

(3)エンドユーザーとして民間航空会社だけでなく防衛関連組織も存在する

 

そのため、A&D業界はサプライチェーン全体の透明性を保つことが極めて困難になっている。さらに、サプライチェーンが長年にわたってグローバル化され、地理的に分断されているため、A&D企業はしばしば国際社会や地域で起こる混乱に対して脆弱な傾向にある。

 

世界的なパンデミックとなったCOVID-19は、A&D業界全体に混乱を引き起こした。旅行客が激減し、労働者が自宅待機となり、航空会社やリース会社は新しい航空機の納入を延期したため、新たな航空機の需要と生産が減少し、民間航空機のOEM、サプライヤに大きな打撃を与えた。また、既存航空機のメンテナンス機会も減少したため、予備部品の需要までも減少した。打撃はそれだけに留まらず、航空機の需要が減少し、人や物の移動が制限されたことで、必要不可欠なサプライチェーンまで崩壊し、顧客への機体・部品の配達が滞る事態となった。

 

多くのA&D業界のサプライヤは、独自の専門知識と複雑な設備を持つ高度な専門家であり、今日、さまざまな要求に応じて迅速に生産計画・生産体制を変更することに苦慮している。また、多くのサプライヤが民間航空ビジネスと防衛ビジネスの両方に従事していることは、今日の事態を際立たせており、民間航空ビジネスにおけるリスクであっても、防衛ビジネスにおけるOEMのプログラムやプラットフォームに不可欠な部品の調達にまで悪影響を及ぼしている。

 

加えて、A&D業界はCOVID-19の混乱から徐々に回復しつつあったにもかかわらず、ロシアによるウクライナ侵攻により業界のサプライチェーンと貿易網がさらに混乱した。

この侵攻は、すでに弱体化している世界的なA&Dサプライチェーンにさらなるストレスを与え、業界需要への対応を妨げている。また、業界のサプライチェーンが特定の国や地域に依存しすぎているのではないか、多角化を考慮すべきではないかという根本的な問題を提起した。この侵攻は、欧米、アジア、ロシア間で行われていた原材料、部品、完成品の交易を含む、グローバルから地域的な調達網への移行を加速させる可能性がある。これにより、主要OEMメーカーは原材料調達におけるロシアへの依存度や、部品や完成品調達におけるアジアへの依存度を下げる可能性がある。

 

本稿では、A&D業界のサプライチェーンに対する侵攻の影響を分析し、A&D企業がサプライチェーンレジリエンスを構築し、現在および将来のサプライチェーンの混乱を乗り切るために考慮すべきアプローチを紹介する。

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