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医師の真の”嗜好性”とは 新しいチャネル嗜好性設定アプローチのご提案

LifeSciense Commercial advisory service “True Persona” by Deloitte Analytics.

製薬会社におけるコマーシャル活動を「最適化手法」と「強化学習」を用いて最適化する

1.背景

コロナ禍以降、医師が医薬品情報を収集する過程は大きく変化している。従来のヒト中心の情報収集からデジタルを組み合わせた情報収集へと行動変容しており、この傾向は今後も続くと想定される。製薬企業において、一律の頻度やマーケティングチャネルでの情報提供は十分な効果が得られないことは周知の事実である。すなわち、医薬情報担当者(Medical Representative: MR)の生産性向上には、医師に応じて適切なチャネルを組み合わせるオムニチャネル戦略が欠かせない。特に医師のチャネル嗜好に応じてセグメンテーションする「チャネル嗜好性設定」について、各製薬企業は一定の取り組みをされていることも多い。今回はDeloitte Analyticsから新たなアプローチを紹介する。

2.現状のチャネル嗜好性設計アプローチ、及びその課題

製薬企業で行われている嗜好性設定は、過去の活動履歴に基づいて行うことが多い。例えば、以下のようなアプローチが挙げられる。

チャネル嗜好性設定アプローチの一例

①MRが経験的に実施してきた活動データを医師別に収集する

②ルールベースや機械学習手法を用いて医師をセグメンテーションする

一般的なチャネル嗜好性設定と問題点

しかし上記のような手法においては下記のような課題と問題点が考えられる。

一般的なチャネル嗜好性設定と問題点

まず、過去のMR活動データのみで設定するためMRの活動傾向に影響を受ける。その結果、医師本来の嗜好とずれた設定となる恐れがあり、適切なマーケティング活動が行えない。

また、新規のターゲット医師の場合は、活動履歴データが不十分なため、正確な嗜好性を把握できない。嗜好性を反映しない活動は、マーケティング効率が悪くなる。

さらに、医師の処方意欲の影響を加味した設定ではないため、設定されたチャネル嗜好性に基づく活動を行っても売上向上に寄与しない恐れがある。

3.Deloitte Analyticsからの提案「真のチャネル嗜好性の探索」

当該領域により優れた嗜好性設定を検討する目的でのアナリティクスを活用においては、特に下記の3つの要素が重要であると考えられる。

本来のあるべきチャネル嗜好性定義

Deloitte Analyticsが考える本来あるべき嗜好性設定

医師の処方意欲向上に直接結びついた嗜好性の特定が理想である。Deloitte Analyticsはデータに基づいた継続的な嗜好性判定を行うことで、嗜好性設定を最適化する。

本来のあるべきチャネル嗜好性定義

まず、MR活動履歴データに加えて、医師個人のデモグラフィック情報等の医師特性情報、および売上データを使用し、最適な医師の嗜好性を判定する。次に、運用時に、最適な嗜好に基づいた活動と、MR活動履歴にないパターンの活動を適切にバランスよく行う。これにより、データがアップデートされ、より適切な嗜好が新たに判定可能となる。なお、医師個人の嗜好性をセグメンテーションする分類は各社既存の設定ロジックをそのまま用いることも可能である。このように継続的に最も医師の処方意欲が高まる嗜好性を追求する。特に売上インパクトについて、社内データを使用した実験で予測売上向上の効果が認められた。

顧客を正しく、かつタイムリーに理解することができ、どのような活動パターンでアプローチすべきか、営業活動戦略における意思決定を支援する。

4.手法紹介

Deloitte Analyticsからの提案手法「真のチャネル嗜好性の探索」を実現する特徴としては最適化手法と強化学習手法が重要となる。

最適化と強化学習を利用して履歴にない活動パターンのデータまで生成・蓄積しながら、真のチャネル嗜好性を求める方法を提案する。

モデル構築フェーズ

  1. MR活動データに医師情報を加え、売上とその「予測信頼度」を合わせて推定する機械学習モデルを構築する
  2. 各医師について、推定される信頼度が一定以上となる条件の中で、推定売上が最大となるMR活動を、最適化手法を用いて取得する
  3. 最適なMR活動に基づいて、医師のチャネル嗜好性セグメンテーションを行う(既存の設定ロジックを用いることも可能)

モデル運用フェーズ

  1. モデルやセグメンテーション結果をもとに、活動推薦を実施。活動データが更新され続ける
  2. 活動推薦では、高い売上が期待できる活動を推薦する「活用」と高い売上となる可能性を持つが、予測信頼度が不十分な活動を推薦する「探索」のバランスを強化学習手法によって制御する
  3. 活用と探索のトレードオフを適切に制御して収集した新しいデータを利用し、再度セグメンテーション結果をアップデート。売上の観点で適切な医師のチャネル嗜好性が得られる

また今回のロジックは汎用的に医師のセグメンテーションに適用できる可能性を秘めており、「チャネル嗜好性分析」に限定されるものではない。

 

医師のチャネル嗜好性分析やセグメンテーションについて課題を感じている場合やこれら技術の詳細については、お問い合わせフォームよりご連絡ください。

執筆者プロフィール

CV 木下 渉

有限責任監査法人トーマツ マネジャー
リスクアドバイザリー事業本部 / デロイトアナリティクス

外資系製薬・医療機器企業・医療機関における業務経験から、医療領域に豊富なドメイン知識を有し、統計・データサイエンスなどの定量分析手法を用いた支援を得意とする。主にライフサイエンス領域においてコマーシャル・メディカル向けの組織最適化プロジェクトを中心に業務実績がある。

有限責任監査法人トーマツ 木下 渉

CV 渡邉 大志

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部 / デロイトアナリティクス

金融機関にて与信戦略やマーケティングに関するデータ分析業務等に従事後、現職。与信管理やAML等不正検知等、金融機関のリスクマネジメント領域に従事。また、最適化をはじめとした機械学習分野に関する研究経験を有する。

有限責任監査法人トーマツ 渡邉 大志

CV 中西 研介

有限責任監査法人トーマツ
監査・保証事業本部 / デロイトアナリティクス R&D

電機メーカーにて無線通信に関する研究業務を経て、現在デロイトアナリティクス R&D メンバー。意思決定のための数理的手法の実応用に向けた研究業務に従事。強化学習、最適化、因果推論等の技術を活用し、幅広い分野での業務経験を有する。博士(工学)。

有限責任監査法人トーマツ 中西 研介
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