Posted: 09 Nov. 2023 10 min. read

ドローンがもたらす天空からのGX

有限責任監査法人トーマツ デロイトアナリティクス所属の毛利研が「第22回情報科学技術フォーラム(FIT2023)」にて、研究を発表しました。この発表は、2040年を見据えて配送事業のラストワンマイル配送の一部にドローンが導入されることを通じたGX(グリーントランスフォーメーション)推進の面から地域に貢献する可能性を示唆するものです。

大会詳細

名  称: 第22回情報科学技術フォーラム(FIT2023)

大会会期: 2023年9月6日(水)~9月8日(金)

会  場: 大阪公立大学 中百舌鳥キャンパス

主  催: 一般社団法人情報処理学会(FIT2023幹事学会)他

区  分: 数理モデル化と問題解決(4)A-018

題  目: ドローン運用のための戦略立案および市場設計に資するシミュレーションモデルの開発
Development of a simulation model that contributes to strategic planning and market design for drone delivery
https://onsite.gakkai-web.net/fit2023/abstract/data/html/program/a.html(外部サイト)


ドローン物流は陸上運送と比べてエネルギー消費量が少なくカーボンニュートラル効果が大きい点が特徴です。また物流に関わる人材の人手不足を解消でき、省人化にも一定の役割を果たすことも期待されています。このように日本社会が対峙すべき課題として、近年、ますます大きな注目を集める環境や人的資本に関する開示情報への関心により、この先も企業が社会に認められソーシャルライセンス(※1)を維持・強化するためには、持続可能なビジネスモデルの構築が必須です。

毛利と共著であるデロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パブリックセクター所属の松﨑 健は、いまだ市場がない分野などの誰も将来の見通しがわからない状況のなかで、仮説を立てて答えを見出すためのアプローチ・フレームワークを開発して活用する(※2)、アドバイザリーおよびコンサルティング業務に従事しています。今回はドローンによるラストワンマイル物流のGXを例に研究の背景・目的および研究内容と結果について紹介します。


 

■最新テクノロジーで物流停滞の危機を打開
 

少子高齢化が急速に進む中、労働力不足の解消に向け、自動化・無人化が日本の社会・産業で急務となっています。それは国内のBtoC向けのEC (Electronic Commerce、電子商取引)市場規模は、直近の10年で約2倍の20兆円規模(※3)へと拡大しているからです。特に、物販系分野のEC市場は、即時性を重視・労働を削減したいなどの時勢もあり、伸長率が顕著です(図1参照)。このように宅配便が爆発的に増加する一方、配送の中心を担うトラックのドライバー不足が指摘されています。また、2024年4月より、働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)による「時間外労働時間の上限規制」などが「自動車運転の業務」にも適用され、物流コストの上昇と人手不足の加速が物流業界全体における「2024年問題」(※4)として懸念されています。この問題への対応として注目されているのが、物流分野へのAI、5Gといった最新テクノロジーの活用です。そしてそれらのテクノロジーを導入した品質面の強みを持ったUGV(Unmanned Ground Vehicle、自動配送ロボット)を含む各種無人ソリューション中で、「ドローン物流」が現在のラストワンマイル物流の在り方を変えると期待されています。

 

図1 EC先進国のEC化率をベンチマークに、EC需要延伸をドライバーとした日本における配送需要の変遷を予測すると2040年には約3倍の物流量に増加を見込む

 

 

注目されるドローン物流
 

ドローン物流が実現すれば「交通渋滞の緩和」「運送業界の人手不足の解消」「過疎地・限界集落への配送」など、さまざまなメリットがもたらされると考えられています。一方でドローンに不具合があった場合の墜落の可能性や、それに伴う危険性、また荷物の重量制限など克服すべき技術課題やそのリスクを許容する我々の受容性の観点も検討する必要があります。そのため2023年9月現在、官民一体となった実証実験が全国各地で行われ、レベル4飛行(有人地帯における目視外飛行)(※5)も解禁されるなど、実装に向けてより本格的に動き出しています。そこで、2024年問題へのアプローチとして「ルート最適化」が注目されています。ルート最適化とは、単に目的地までの最適なルートを割り出して効率化を図ることを意味するのではありません。全体の物流ニーズに対して配送パターンの最適な組み合わせを見つけて物流の効率性を最大限に高めることを指します。我々はこの配送パターンに注目して、ドローン物流のエネルギー削減と輸送効率の両方を高めることのできる従来の輸送パターンとは異なるアプローチを発見しました。

 

 

「マルチホップ配送」パターンの発見
 

物流事業者のみならず政府・自治体が社会的な課題を乗り越え未来を切り拓いていくための根拠(エビデンス)を得るために、論文の共著である有限責任監査法人トーマツ デロイトアナリティクス所属の中西研介と共に、より現実的な予測をするため統計データおよび数値シミュレーションを用いました。具体的には、市町村区域における気象条件や地形、土地利用、公共施設などの国土に関する基礎的な情報を加味、最も効率よくドローンが飛行する配送経路を導出する計算ロジックについて数理最適化モデルを活用してその飛行パターンを特定しました。これは、ドローン配送が実施されている市区町村を「シナリオ」として積み上げて推測する従来の手法より画期的なアプローチと言えます。

数値シミュレーションでは、図2に示す現実的な需要の変化を計算メッシュ内においてモンテカルロ法で与えることで、ラストワンマイル配送に必要な平均的なドローン台数が求まります。これは、ドローンが一度に運搬できる荷物容量(ペイロード)に対して単位時間あたりの需要を満たすための平均積載パターンを数値シミュレーションにて直接推定できるからです。したがって、“物流拠点からメッシュの距離”דドローン配送量”が最小になるように、最適化を実施することで、最も効率的な配送モデルとその際の配送回数を導出するアルゴリズムを構築しました。
 

図2 ドローン配送の稼働率最大化(=収益性最大化)を念頭に置き、ドローン物流の最適化後の絵姿を想起すると論理的には4類型に収束すると想定


今回、数値シミュレーション実験を始める前にドローン配送の稼働率最大化(=収益性最大化)を念頭に置き、ドローン物流の最適化後の絵姿を想起すると4類型に収束すると想定しておりました(図 2参照)。そして実際、計算機にて数値シミュレーションを行いその結果についてクラスター分析を行うと仮説で提示した4類型に収束することが確認されました (図3 参照)。さらに、計算したドローンの飛行経路を確認すると配送モデルの物流構造についても仮説通りの結果となっていました。

 

図3 配送シミュレーションの物流構造についても仮説通りの結果を得ることができた

 

 

■ドローンによるCO2削減効率
 

本研究において、日本全国を500m矩形メッシュで分割、将来予測も含めてドローンを使って配送を行った場合に、中・軽トラックやバイクといった手段よりもどのくらいエネルギー消費量を削減できるのか定量的に示すため、既存物流から一部または全てドローン物流に置き換わった場合のCO2削減量を推定する計算を行いました。今回の研究はこれまでの既存研究と異なり、日本全国にわたって2040年までの将来を予測することにあります。その結果,日本全国においてドローン配送の初期参入点の特定のみならず、時空間的にどのようにドローン配送が広がっていくのかを可視化でき,その際のCO2削減量の見積もり値を得ることができました。実際、中央官庁が2040年まで想定されるドローン技術発展のロードマップに照らし合わせて、どのような地域においてルート最適化につながる「とるべき輸送パターン」を特定することができました(図4参照)。驚くべきことに、「マルチホップ型」のCO2削減効率が最もは高く、日本のいずれの地域においても平均値で算出された図2に示す4類型のCO2削減効率における順位は変わらないことが確認されました。
 

図4 関東においては北関東を起点に普及を開始し、2035年には都心中心部にも普及

 

 

今後の課題
 

今後は配送の効率化やスピードアップといった観点からだけでなく,過疎化や地方創生をはじめとする都市化の観点からもドローン配送を議論していきたいと考えております。開発したシミュレータは、大型のドローンで重量のある荷物を運ばせた場合や,悪天候時の消費エネルギーの変化も加味できます。また、2023年9月現在におけるドローン配送シミュレーションの多くは、単一のエンドユーザの荷物を積載する場合のみを考慮する配送が前提となっています。そのため、将来のドローン配送運用を想定の上、輸送コスト削減の観点から異なるエンドユーザの荷物をとりまとめ、ひとつの貨物とする「混載」まで数値シミュレーションの中で議論できるようにしました。それにより、事業者がドローン導入を検討するために参考となる損益分岐点や地理的特性に即したドローン配送経路 (パターン) を検討することができるようになることを期待しております。

 

<引用>

※1:Deloitte Analytics コラム、「地域社会と対話する上での道徳や倫理の必要性

※2:Deloitte AI Institute コラム、2023/2/24、「宇宙ミッションと企業ビジョン実現の共通点」

※3:経済産業省、2021/7/30、「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)」

※4:経済産業省、2023/8、「持続可能な物流の実現に向けた検討会最終取りまとめ」

※5:経済産業省、2021/3/17、「レベル4飛行の制度概要及び施行状況について」

 

 

執筆者

毛利 研
有限責任監査法人トーマツ デロイトアナリティクス
シニアマネジャー 兼 スペシャリストリード

有限責任監査法人トーマツ 所属。国内最大級のインターネットサービス企業におけるR&D部門にて、機械学習およびディープラーニング、自然言語処理技術の研究および同テクノロジを利用した機能開発をプロダクトマネージャーとしてリード。

研究開発の他、AIやブロックチェーンテクノロジを含む最新技術をビジネスモデルのコアとするベンチャー企業への投資実行の経験も有する。その後、有限責任監査法人トーマツに勤務、経営の課題解決やアナリティクス組織の立ち上げから高度化に繋がるデータ分析活動の推進支援に関わる。大手メーカー時代は、防衛事業を主にする部署にて情報システムの開発、米国拠点において国防省・諜報機関の先端技術動向調査に従事。

 

松﨑 健
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パブリックセクター 
マネジャー

 

中西 研介
有限責任監査法人トーマツ デロイトアナリティクス
シニアスタッフ

 

プロフェッショナル

神津 友武/Tomotake Kozu

神津 友武/Tomotake Kozu

デロイト トーマツ グループ パートナー

有限責任監査法人トーマツ パートナー。物理学の研究員、コンサルティング会社を経て、2002 年から有限責任監査法人トーマツに勤務。 金融機関、商社やエネルギー会社を中心にデリバティブ・証券化商品の時価評価、定量的リスク分析、株式価値評価等の領域で、数理統計分析を用いた会計監査補助業務とコンサルティング業務に多数従事。 現在は金融、エネルギー、製造、小売、医薬、公共等の領域で、デロイト トーマツ グループが提供する監査およびコンサルティングサービスへのアナリティクス活用を推進すると共に、データ分析基礎技術開発を行う研究開発部門をリードしている。 東京工業大学大学院 イノベーションマネジメント研究科技術経営専攻 客員准教授