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資産税に関する令和6年度税制改正について

ファミリーコンサルティングニュースレター 2024年1月

令和5年12月14日、「令和6年度税制改正大綱」が公表されました。今回は、その中から資産税を中心に重要性が高い項目について解説を行います。

はじめに

令和5年12月14日、「令和6年度税制改正大綱」が公表されました。今回は、その中から資産税を中心に重要性が高い下記項目について解説を行います。

  • 住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置の見直し
  • 非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予の特例制度の見直し
  • 新たな公益信託制度の創設に伴う、相続税・贈与税を非課税とする措置の導入
  • ストックオプション税制の拡充
  • 外形標準課税の見直し
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資産税に関する令和6年度税制改正の概要

1. 住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置の見直し

(1) 制度の概要

父母・祖父母など直系尊属からの贈与により、自己の居住の用に供する住宅用家屋を新築等するための資金を取得した場合に、一定の要件を満たすことで、最大1,000万円まで贈与税が非課税となる制度です。

(2) 税制改正の概要
  •  適用期限が、令和5年12月 31 日から令和 8 年 12 月 31 日まで 3 年延⾧されます。
  • 省エネ等住宅の場合は1,000万円まで、それ以外の住宅の場合は500万円までの住宅取得等資金の贈与が非課税となります。この省エネ等住宅のうち、エネルギーの使用の合理化に著しく資する住宅用の家屋の要件について、次の見直しが行われます。なお、一定の耐震住宅、一定のバリアフリー住宅については、要件の見直しはされません。

現行

改正案

省エネ性能が断熱等性能等級4以上又は一次エネルギー消費量等級4以上であること

省エネ性能が断熱等性能等級5以上かつ一次エネルギー消費量等級6以上であること※

 
※住宅用家屋の省エネ性能が断熱等性能等級4以上又は一次エネルギー消費量等級4以上であり、かつ、当該住宅用家屋が次のいずれかに該当するものであるときは、当該住宅用家屋は上乗せ措置の対象とされます。
イ 令和5年12月31日以前に建築確認を受けているもの
ロ 令和6年6月30日以前に建築されたもの

  • 上記の改正は、令和6年1月1日以後の、当該制度に係る贈与税について適用されます。
  • 特定の贈与者から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税制度の特例措置等についても適用期限が3年延長され、同様に適用されます。
     

2. 非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予の特例制度の見直し

(1) 制度の概要

後継者が非上場株式を先代経営者等から贈与・相続により取得した際、一定の要件を満たすことで、当該非上場株式に係る贈与税・相続税の納税が最大全額猶予される制度です。

(2) 税制改正の概要

当該特例制度を適用するためには、特例承継計画を対象会社の主たる事務所が所在する都道府県に提出する必要がありますが、次のとおり提出期限が2年延長されます。

現行

改正案

令和6年3月31日

 令和8年3月31日


(3) 留意点

特例承継計画の提出期限は2年延長されたものの、特例制度自体は令和9年12月末までの時限措置とされており、今回の大綱の基本的考え方において適用期限の延長は行わない旨が明記されているため、適用を検討している企業に関しては早期に事業承継に取り組むことが期待されます。
 

3. 新たな公益信託制度の創設に伴う、相続税・贈与税を非課税とする措置の導入

(1) 制度の概要
  • 公益信託とは、委託者(財産を有する者)が、学術、技芸、慈善等の公益目的のために受託者(信託銀行等)に財産を託し、受託者は、定められた目的に従って、その財産を管理・運用し、公益的な活動を行う制度です1
  • 特定の公益信託に対して相続や遺贈で取得した金銭を支出し、一定の要件を満たす場合には、その支出した金銭に対しては相続税が非課税となる制度です。
(2) 税制改正の背景・目的

「令和6年度内閣府税制改正要望2」における新たな公益信託制度の創設の背景・目的によると、公益信託を組成するためには、信託銀行等が主務官庁へ認可申請を行う必要があるが、この主務官庁制を撤廃し、公益法人認定法と共通の枠組みで公益信託の認可・監督を行う仕組みとし、公益性を担保しつつ、より使いやすい制度を構築するため、公益信託法の改正が行われる予定です。
 

(新しい公益信託制度のイメージ)


【出所】「令和6年度 内閣府税制改正要望」 内閣府ウェブサイトPDF19ページを参考に作成


1【出所】公益信託(一般社団法人信託協会ウェブサイト)
2 「令和6年度 内閣府税制改正要望」(内閣府ウェブサイト(PDF 19ページ))


(3) 税制改正の概要
  • 公益信託制度改革による新たな公益信託制度の創設に伴い、公益信託の信託財産とするために相続財産を拠出した場合について、相続税の非課税制度の対象とされます。
  • 公益信託から給付を受ける財産については、その信託の目的にかかわらず贈与税を非課税とするなど一定の措置がとられます。

4. ストックオプション税制の拡充

(1) 制度の概要

一定の取締役・使用人等が株式会社から一定の要件を満たす新株予約権(税制適格ストックオプション)を付与された場合において、新株予約権行使時の給与所得課税は行われず、株式売却時のみの譲渡益課税となる制度です。

(2) 税制改正の概要

① 適用対象となる新株予約権に係る保管等の要件の緩和
これまで非上場会社においても、税制適格ストックオプションの要件を満たすために、証券会社等と契約し、専用口座を従業員ごとに開設し株式の保管委託をする必要がありましたが、譲渡制限株式については、証券会社等による株式の保管委託に代えて発行会社による株式の管理も可能となります。

② その年における新株予約権の権利行使価額の限度額の引上げ
スタートアップの人材獲得力向上のため、次のとおり適用要件の年間権利行使価額の上限が引き上げられます。

項目

現行

改正案

その年における新株予約権の権利行使価額の限度額

設立の日以後の期間が5年未満の株式会社が付与する新株予約権

 1,200万円

 2,400万円

一定の株式会社(※)が付与する新株予約権

1,200万円

 3,600万円

(※)「一定の株式会社」とは、設立以後の期間が5年以上20年未満の未上場の株式会社又は上場会社のうち上場等の日以後5年未満であるものをいいます。

③ 新株予約権の付与対象者の拡充等
新株予約権の付与対象者である社外高度人材の要件の緩和・拡充等が行われます。
 

5. 外形標準課税の見直し

(1) 制度の概要

事業年度末日の資本金が1億円を超える法人において、法人の所得の他、外形基準(報酬給与額・純支払利子・純支払賃借料・資本金等の額)に対しても事業税が課される制度です。

(2) 税制改正の目的・概要
  • 企業の稼ぐ力を高める法人税改革の趣旨や地方税収の安定化・税負担の公平性といった制度導入の趣旨を踏まえ、事業税の外形標準課税の適用対象法人のあり方について見直されます。
  • 具体的には、①減資への対応 及び ②100%子法人等への対応として以下の見直しが行われますが、過去から資本金1億円以下であることにより外形標準課税の対象外であった法人は、今後も資本金及び資本剰余金の合計に変動がない前提において、引き続き外形標準課税の対象外とされます。

① 減資への対応改正案

改正案

見直し内容

現行基準(事業年度末日の資本金1億円超)に加え、当該事業年度の前事業年度に外形標準課税の対象であった法人であって、当該事業年度に資本金1億円以下で、資本金及び資本剰余金の合計額が10億円を超えるものは、外形標準課税の対象とされます。

経過措置

 経過措置として、施行日(令和7年4月1日)以後最初に開始する事業年度については、上記にかかわらず、公布日を含む事業年度の前事業年度(※)に外形標準課税の対象であった法人であって、当該施行日以後最初に開始する事業年度に資本金1億円以下で、資本金と資本剰余金の合計額が10億円を超えるものは、外形標準課税の対象とされます。
(※)公布日の前日に資本金が1億円以下となっていた場合には、公布日以後最初に終了する事業年度

適用

 上記改正は、令和7年4月1日に施行され、同日以後に開始する事業年度から適用されます。

 

② 100%子法人等への対応

改正案

見直し内容

資本金と資本剰余金の合計額が50億円を超える法人等(非課税又は所得割のみで課税される法人等を除く)の100%子法人等のうち、当該事業年度末日の資本金が1億円以下で、資本金と資本剰余金の合計額(※1)が2億円を超えるものは、外形標準課税の対象とされます。
(※1)公布日以後に、当該100%子法人等がその100%親法人等に対して資本剰余金から配当を行った場合においては、当該配当に相当する額を加算した金額とされます



特例措置

産業競争力強化法の特別事業再編(仮称)に基づいて行われるM&Aにより100%子法人等となった一定の法人等については、5年間、外形標準課税の対象外とされます(現行基準(事業年度末日の資本金1億円超)又は上記①により外形標準課税の対象となる場合を除きます)。

経過措置

当該改正により、新たに外形標準課税の対象となる法人については、令和8年4月1日から令和10年3月31日までの間に開始する事業年度において一定の軽減措置が設けられます。

適用

上記改正は、令和8年4月1日に施行され、同日以後に開始する事業年度から適用されます。

 

※本記事は、掲載日時点で有効な日本国あるいは当該国の税法令等に基づくものです。掲載日以降に法令等が変更される可能性がありますが、これに対応して本記事が更新されるものではない点につきご留意ください。

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