ナレッジ

資産税に関する令和3年度税制改正について

ファミリーコンサルティングニュースレター 2021年1月

令和2年12月10日、「令和3年度税制改正大綱」が公表された。ウィズコロナ・ポストコロナの経済再生やデジタル社会の実現を中心とした税制改正が行われる。本稿は、その中で資産税に関する重要性が高い項目について解説を行う。また、税制改正大綱で見送られた資産税関係の改正要望や、今後議論が進められる相続税・贈与税の課税方式の見直しについても、触れることとする。

資産税に関する令和3年度税制改正の概要

資産税に関する令和3年度税制改正の概要は下記となる。

1.教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置の見直し

(1) 制度の概要

  • 教育資金、結婚・子育て資金に充てるために、父母や祖父母など直系尊属から資金の贈与を受けた場合に一定の要件を満たすことで、一定額まで贈与税が非課税になる制度

(2) 税制改正の概要

高齢者が保有する個人金融資産の孫等への世代間資産移転を促進させるため、制度の適用期限が令和5年3月31日まで延長される一方で、経済格差の固定化につながる側面もあることから制度が厳格化される。

  • 教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の厳格化(非課税限度額:最大1,500万円)
     

現行

改正案

贈与者死亡時の管理残額(※1)
の取り扱い

3年以内に相続発生

相続税課税(※2)
(孫等への2割加算の適用なし)

相続税課税(※2)
(孫等への2割加算の適用あり)

3年超に
相続発生

相続税非課税

(※1) 管理残額とは、非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額をいう
(※2) 受贈者が23歳未満である場合や学校等に在学している場合などを除く

  • 結婚・子育て資金の一括贈与についても、受贈者が贈与者の孫等である場合、贈与者死亡時の非課税拠出額から結婚・子育て資金支出額を控除した残額に係る相続税額に2割加算が適用される。(非課税限度額:最大1,000万円)
  • 上記は、令和3年4月1日以後の贈与について適用される

(3) 留意点

  • 令和3年3月31日までの贈与は上記の改正案が適用されず、現行の取り扱いが維持される

 

(863KB, PDF)

2. 非上場株式等に係る相続税の納税猶予の要件緩和

(1) 制度の概要

  • 後継者が非上場株式を先代経営者から贈与・相続により取得した際、一定の要件を満たすことで、贈与税・相続税の納税が最大全額猶予される制度

(2) 税制改正の概要

中小企業経営者の高齢化を踏まえ、後継者の役員要件を緩和することで制度の活用促進が図られる。

制度適用に当たっては、後継者が先代経営者の相続開始の直前において納税猶予対象会社の役員でなければならないが、以下のいずれかに該当する場合には、直前において役員でなくても、本制度の適用を受けることができる。

 

現行

改正案

先代経営者の死亡時の年齢
(特例制度・一般制度)

60歳未満

70歳未満

特例承継計画への後継者の記載(特例制度)(※1)

-

後継者が特例承継計画に特例後継者として記載されている者である場合

(※1)令和5年3月31日までに特例承継計画を作成し、本店所在地の都道府県に提出する必要がある。
(参考)
特例制度:令和9年12月31日までの贈与・相続等により承継した全株式について、一定の要件のもと、贈与税・相続税の100%が猶予
一般制度:贈与・相続等により承継した株式のうち総株式数の最大2/3まで、一定の要件のもと、贈与税の100%・相続税の80%が猶予

(3) 留意点

  • 相続の場合の後継者の役員要件は緩和されるものの、特例制度(100%猶予)を受けるためには、令和5年3月31日までに特例承継計画を作成し、提出する必要がある
  • 適用時期は未定

 

3. 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置の見直し

(1) 制度の概要

  • 自己居住用住宅の新築・増改築に充てるために、父母や祖父母など直系尊属から資金の贈与を受けた場合に一定の要件を満たすことで、一定額まで贈与税が非課税になる制度

(2) 税制改正の概要

資産の早期移転による消費拡大を通じた経済の活性化を図るため、制度の拡充・緩和が行われる。

  • 令和3年4月1日から同年12月31日までの非課税限度額が、以下のとおり、令和3年3月31日までと同額に据え置く

住宅の新築・増改築に係る契約締結日

令和3年1月~3月

令和3年4月~12月

消費税率10%の住宅用家屋の
新築等の非課税限度額(※1)

1,500万円

改正案:1,500万円
(現行:1,200万円)

上記以外の住宅用家屋の
新築等の非課税限度額(※1)

1,000万円

改正案:1,000万円
(現行:800万円)

(※1)上記は省エネルギー性の高い住宅等を指し、一般の住宅に係る非課税限度額は、上記からそれぞれ500万円を減じた額とする。

  • その他、一定の場合は、制度対象となる住宅の床面積の下限が50㎡以上から40㎡以上に緩和される
  • 上記は、令和3年1月1日以後の贈与について適用される

 

4. (参考)令和3年度税制改正では見送られた資産税関係の改正要望について

金融庁からの改正要望のうち、動向が注目されていた下記について、令和3年度税制改正では見送りが決定した。

(1) 第三者への事業承継に係る譲渡益課税の猶予措置

非上場会社において、第三者への株式譲渡による事業承継については、創業利益が一括で所得税課税(20%)されるため、承継の弊害になっているケースがある。これについて、猶予措置(株式を譲渡して得た資金で一定の金融商品に投資した場合には、売却するまで株式譲渡益を猶予するというもの)が要望されていた。

(2) 上場株式の相続税に係る評価の見直し

上場株式の相続税評価に関して、相続(死亡)から相続税納付までの10ヵ月の期間の価格変動リスクが考慮されていないため、相続税評価が割高になるケースがある。死亡日の前年の年平均株価や死亡月の2年平均株価など、評価方法の選択肢を広げて、負担感を軽減することが要望されていた。

(3) 死亡保険金の相続税非課税限度額の引上げ

相続税納付後の遺族の生活資金をより確保するために、現行の非課税限度額(法定相続人の数×500万円)に「配偶者及び未成年の子(被扶養者)の数×500万円」を加算して、生命保険金の非課税枠の拡大が要望されていた。

 

今後議論が進められる相続税・贈与税の課税方式の見直し

令和3年度税制改正大綱にて、今後本格的な検討を進める旨が明記された相続税・贈与税一体化議論について、紹介する。

1. 制度改正へ向けた議論開始の背景

日本は個人金融資産保有残高の約6割が、60歳代以上に偏在している状況であるが、被相続人の高齢化による「老老相続」の増加に伴い、消費意欲の高い若年世代への相続による財産の移転が進んでいない。また、贈与税は相続税負担の回避を防止する観点から、相続税よりも重い税率構造が設定されているため、税負担を意識して贈与による財産の移転も進んでいない。

他方で、富裕層の相続対策として、生前贈与による節税策が毎年実施されている。現行制度上、将来の相続税率よりも低い贈与税率により、財産の分割贈与を毎年行うことで、将来生じる相続税額よりも低い税負担で財産を移転できるためである。

上記問題につき、米国やドイツ、フランスなどの諸外国では相続税・贈与税を統合した累積額への一体課税を実施して、資産移転の時期による税負担の差異をなくし、意図的な税負担の回避を防止する制度を導入している。これに倣い、日本でも相続税と贈与税を一体的に捉えて課税する制度の構築に向け、本年より本格的な検討を進めていくこととなった。

出典:財務省ウェブサイト

2. 今後の動き

  • 本年より政府税制調査会(首相の諮問機関)が専門家会合を設置して、具体的な検討に入る
  • 最短で令和4年度税制改正大綱に、制度改正案が織り込まれる可能性がある

 

※本記事は、掲載日時点で有効な日本国あるいは当該国の税法令等に基づくものです。掲載日以降に法令等が変更される可能性がありますが、これに対応して本記事が更新されるものではない点につきご留意ください。

>「ファミリーコンサルティングニュースレター」に関するその他の記事はこちら:ファミリーコンサルティング ニュースレター一覧

お役に立ちましたか?