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Chair of the Future - 取締役会議長インタビュー

TDK株式会社 石村 和彦氏

デロイトでは、取締役会や経営幹部の皆様が共通して関心を寄せる重要なトピックに取り組むべく、「Deloitte Global Boardroom Program」を実施しております。このプログラムの一環として「取締役会議長」にフォーカスをあて、インタビューを実施しました。

<プロフィール>
TDK株式会社
取締役会議長
石村 和彦 (Ishimura Kazuhiko)

旭硝子株式会社(現 AGC株式会社)代表取締役兼社長執行役員CEO、代表取締役会長を歴任後、国立研究開発法人産業技術総合研究所理事長(現任)に就任。

2015年よりTDK株式会社の社外取締役に就任し2020年6月から報酬諮問委員会委員長、2021年6月から取締役会議長に就任。その他、株式会社IHI、野村ホールディングス株式会社の社外取締役を務める。

“議長は各役員が持つ意見や考え方の違いを尊重しながら、取締役会が一体となり同じ方向を向くよう導いていく“

Q. 取締役会議長就任後の意識・役割の変化や、メンバーの意見を引き出すために意識していること

A. 取締役会議長と一取締役の違いとして、皆さんの意見を引き出さないといけないというところはありますね。一取締役であれば自分の責任で自分の意見を言うことが主な役割ですが、議長はそれに加えて各取締役・監査役が持つ意見や考え方の違いを尊重しながら、最終的には取締役会が一体となって同じ方向を向けるよう導いていく努力をする必要があると思っています。

 私自身は6年間TDKの取締役を務めさせていただく中で、中期経営計画の策定やM&A等会社の大事な局面に何度か携わってきたこともあり、会社が目指している姿を十分理解していて、執行側の認識と齟齬は無いと思っています。ただし、新任の社外取締役の方の場合、会社が目指す姿への認識不足や事業そのものに対する理解不足がある中で発言するのは難しい面もあるだろうなという感じはありますね。各自の発言を聞いている中で”誤解があるのではないか”と感じた際は、議長としてうまく軌道修正してあげることで、きちんと理解してもらうようにしています。

 取締役会の運営面ではTDKの場合、アジェンダや時間配分は執行側が準備していますが、社外取締役向けに事前説明の時間を取ってもらっています。事前説明の中で”ここはものすごく議論になりそうだな”と思うところがあれば時間配分を見直す等していて、それが取締役会の運営には非常に有効ですね。また、もし事前説明の中で疑問が解消しきれなくても、取締役会当日までに準備しておいてほしい資料を事前に伝えておくことで、取締役会当日になって資料や情報が足りないから決議できない、という結果にはならないです。

Q. コロナ禍前後で中長期の戦略・事業計画についての議論の変化

A. あまり関係なかったと私は認識しています。TDKでは、社会課題を踏まえて長期戦略を取締役会で議論しています。長期的にどのような方向を目指し、どういう分野に注力するのかを決めて、そこからバックキャストで今後の3年間をどのようにしていくのかという議論をして、中期経営計画を策定しています。もちろんその内容に関する議論を取締役会の中で相当行っています。既存の中期経営計画ではポスト5Gということまで戦略の中に含めていたので、今回のコロナ禍を受けて、計画の見直しが必要になったというよりは、経営環境の変化への対応は既存計画で十分にカバーできることが確認できたと思っています。

 議題を決めるにあたり、社外のメンバーだけで何に懸念があるのか、今後どういうことを議論したいのか、ということも話をしています。事業ポートフォリオ、特に地域というか、ビジネスを展開している場所のポートフォリオを踏まえたリスクにも関心を持っており、執行側の考えを聞かせてもらったうえで、方向性を議論する機会を設けてもらうようにしています。

Chair of the Future - 取締役会議長インタビュー : TDK株式会社 石村 和彦氏 (PDF, 1.12MB)

“内輪の理論の経営から、ステークホルダーの目線を入れることで日本の産業競争力を強化する“

Q. 企業と社会の関係変化、特にサステナビリティ動向・気候変動

A. つい先日の取締役会や、その前の取締役会でも議論しており、サステナビリティ、特に地球温暖化について会社としてゼロエミッションをどう目指していくのか相当議論しています。

 先ほど社会課題を踏まえて長期戦略を策定し、そこからバックキャストして中期経営計画を策定すると申し上げましたが、社会課題の1つとしてサステナビリティを認識しているので、事業活動を通じて課題解決につなげていきたいと考えています。つまり、事業活動とは別に社会貢献活動があるというわけではありません。長期のサステナビリティの課題の中からTDKができることを決めて、ビジネスをすること自体が世界を良くすることに繋がるはずです。

 一方で、TDKが事業活動を行っていく上では当然CO2を排出してしまう、そのあたりにどう対応していくのかということも1つの課題だと認識しています。エネルギーの中でも電力の消費が大きいので、まずは、”ゼロエミッション電源化を目指す”というのが今後の方針になると思います。それと非電力のところのエネルギーをできるだけ省エネ化するような取組みについても議論しています。殆どの事業は最終的にはサステナビリティ課題を解決し、ビジネスをすることでそれが良くなる方向に進むべきであり、それに反するようなビジネスはやってはいけないはずです。

Q. 東証市場区分見直し、コーポレートガバナンス・コードの改訂などガバナンスに関する資本市場の要請

A. 日本の産業競争力が落ちてきているので、その再強化の手段の1つがコーポレートガバナンスの強化だと思います。内輪の理論の経営から、ステークホルダーの目線を入れて、もう少し競争力のある経営に変えさせる、それが政府の考え方なのかなと私は理解しています。そう考えると、コードで言われたから形を整えるというのは全く意味がないと思います。会社が本当に変革することで、競争力を強化することが重要です。

 また、サクセッションプランは、まず執行側が策定すべきことだと思います。社長になった瞬間に次の社長、次の次くらいまでを考えておかないといけないでしょう。社長だけでなくエグゼクティブメンバー、上層10~20くらいのポストに対して明確な全社サクセッションプランを持っておき、育成の観点からどうやってローテーションしながら運営していくかという点です。理想としては、特に社長のサクセッションについては社外取締役も入って長期に検討できるといいと思います。例えば、何人かに絞られてきたら順番にポジショニングしたり教育したりしながら、最後の一人をどう選出するかということに社外取締役が関わることができれば望ましいです。最後の土壇場になってからではなく、1年くらい前にショートリストに少なくとも3名くらい候補をあげて、取締役会や直接会って話をすることで、執行の考えだけでなく、社外取締役の目も入れて決定というプロセスを踏むのが望ましいと思います。

Q. 対面ではなくオンライン形式での議事運営を円滑に進めるにあたって工夫した取り組み

A. 緊急事態宣言が出ているときは基本、オンライン形式で議事運営を行いましたが、対面で開催している時と変わらず活発な議論ができているため、特別な工夫や取組みはしていないですね。今回のパンデミックを通じて対面開催でなくても問題ないということが理解できたので、今後は対面・オンラインのハイブリッドでやっていくことが必要です。時間調整や日程調整等のとても労力がかかる作業がなくなるため、開催がはるかに楽になる気がしています。

Q. 次世代の取締役会議長に対してアドバイス

A. 様々な場面における執行側との議論を通じて、会社が目指す方向性やビジョン、中長期の課題について理解し、その方向に向かって何を実施しているのかということを十分理解することが重要です。その点について、社長をはじめとする執行側と私の間では共通の理解が出来ていると思いますし、社外取締役であっても特に議長は執行側と共通認識を持って運営していかないと誤った方向に進んでしまうおそれがあります。今のTDKのやり方として、中期経営計画は策定過程から取締役会で何回か相当議論したものになっているので、理解がかなり深まっています。

 ビジョン等について机上で議論して理解することも大事ですが、やはりメーカーですので製造現場を見ておくことが非常に重要だと認識しています。私自身もコロナ禍の前は、国内・海外の主要工場を毎年視察していました。社外取締役が頻繁に現場を視察することは難しいかもしれませんが、現場の状況をみて、現地の経営陣や従業員と話をすることで、より建設的な議論に繋がると考えています。

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