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Industry Eye 第52回 資源・エネルギー・生産財セクター

コロナショックと減損検討

2020年に入り、世界に新型コロナウイルスの感染が広がると、各国の経済活動が大幅に制限され、世界経済は急速な悪化、原油等の資源価格が急速に下落しました。本稿ではいわゆるコロナショックにより、各社がどのように2020年3月期の減損検討に対応したのかを解説します。

I.はじめに

2020年に入り、世界に新型コロナウイルスの感染が広がると、各国の経済活動が大幅に制限され、世界経済の急速な縮小、各種市場価格の下落、金融市場の混乱が生じた。特に株式市場は2020年初頭と比較して、3月末で概ね3割から4割、原油等の資源価格については半分以下と大幅な下落が生じた。このような中で、どのような業種が一番影響を受けたのであろうか。巷で言われているのは商社を含む資源関連、旅行・レジャー業界、運輸関連である。次章では業種別の株価の推移を見てみる。

II.コロナショックの影響が顕著な業種

まずTOPIX-17シリーズ(東京証券取引所で日本株の分類として伝統的に利用されてきた33業種分類を投資利便性から17業種に再編したもの)を用いて、コロナショック前後での業種別株価推移を明らかにしていく。

こちらを見ていくと、どの業種も概ね2割から4割と大幅な下落をしているものの、やはりエネルギー資源関連や鉄鋼の株価が大幅な下落をしているのが見て取れる。上記グラフにおけるエネルギー資源関連で比較的規模の大きい5社の当期純利益と減損損失額を比較すると以下の通りである。

この中では規模の大きいB社の減損額が他社に比べ大きい。この主な内訳は、英国北海およびパプアニューギニアにおける油田・ガス田権益に関して、期末日時点での原油・ガス価格の動向を踏まえたものと記載されている。

また同じくエネルギー資源関連ということで、資源価格のエクスポージャーの大きい5大商社の2020年3月期における減損金額を見て行く。各社いずれも-500億円から-4,000億円に上る減損金額を計上している(下記グラフ参照)。

減損金額は各社で幅があるが、E社は、銅や原油といった資源価格の下落による減損に加えて、穀物事業の減損により4,000億円以上の損失を出している。穀物事業については過年度においても一部減損を計上しているが、今期コロナショックにより事業環境が不透明となり、残っていたのれんの減損を計上したと記載されている。

III.コロナショックの影響と減損テスト

先ほど示したグラフの中で、減損損失を比較的多額に計上している会社については、国際的な大企業が多く、国際財務報告基準(IFRS)を採用していることが見て取れる。例えば大手エネルギー資源会社で言及したB社や5大商社はいずれもIFRSを採用しており、日本基準を採用している会社に比べ、以下の通り減損の兆候判断、減損テストのタイミングに違いがある。

上記の通りIFRSを採用している企業は、減損の兆候も幅広くとらえ、かつ償却を行わない資産については強制的に毎年減損テストを行うため、2020年3月期で損失を日本基準よりも早期に計上している可能性がある。また日本基準と異なりのれんが償却されないため、業績が悪化した際にのれんの減損額が巨額になる傾向にある。一方で日本基準を採用している企業については、2020年3月期の減損金額がIFRSよりも限定的である可能性がある。

IV.2020年3月期減損テストの具体例

ここで、2020年3月期に減損損失を計上した会社はどのように減損損失を見積もったのであろうか。2020年2月後半にコロナショックで各国の株価が急落して以降、緊急事態宣言の発令を受けて、移動制限、各種イベントの休止等や原油等の資源価格の下落が立て続けに発生した一方で、当時はコロナショックの収束の見通しがほとんど立たない状況であった。

まず短い時間の中で、減損テストのための事業計画を作成する場合、新たに積み上げベースの事業計画を作り直すことは非常に困難であり、多くの会社で既存の事業計画に一定の調整を加えて対応したと考えられる。具体的には、①コロナショックが既存の事業計画の各種パラメーターに与える影響の度合いと、②コロナショックが収束し当初事業計画への回復までの期間を見積もり、コロナショックを反映した減損テストのための事業計画とすることが考えられる。そこで①、②の項目について、どのような資料を基にこれらのパラメーターが見積もられるのか、以下具体的に見て行く。

 

① 以下のデータを基に売上高や営業利益等を補正するケース

(a) 2020年1月から3月(直近4Q)、もしくは2020年3月単月の予算対比の落ち込み具合

(b) 類似会社の株価の下落率(例えばコロナショック直前の2020年1月初めと期末月である3月データとの比較)

 

② コロナショックからの回復シナリオは以下の通り見積もられているケース

(a) 2020年度だけの影響と整理

(b) 一般に広く公表されている経済シナリオ(国際通貨基金や大手会計事務所が発行)を基に回復期間を策定

 

<参考>: 国際通貨基金、Deloitte USが発行した経済シナリオ

A) 国際通貨基金は2020年4月14日にコロナショックに基づく世界経済見通しを発行しており、基礎シナリオとして、2021年度に向けた経済の回復予測を記述している(2020年6月24日にコロナショックの長期化を受け、世界経済の見通しを引き下げ景気回復の遅れを織り込んだ経済シナリオを新たに公表している)。

B) Deloitte USは2020年4月6日にCOVID-19に基づく経済シナリオ見通しを発行しており、その中で3つのシナリオに分け、1.5年から3.0年にわたる経済の回復シナリオを記述している。

出所: 国際通貨基金、2020年4月「世界経済見通し(WEO)」、 Deloitte US、Recovering from COVID-19 Economic cases for resilient leaders

 

このように、コロナショック下における減損テストのための事業計画については、合理的な範囲において様々なシナリオが考えられ、通常時より見積もりの要素が大きいものと考えられる。

したがって各社の財務諸表に反映されたコロナショックの影響(減損額)は、合理的な範囲において一定程度見積もりの幅が含まれ、今後新たな事象の発現に伴い、実態と乖離する可能性も考えられる。

V.おわりに

2020年2月以降、市場経済に顕著な影響を及ぼしたコロナショックについては一時期沈静化の兆しが見えてきたものの、最近では若年層を中心とする感染者の爆発的な増加、新興国での被害の拡大等収束の見込みが立たない状況に陥っている。その中で、企業の赤字決算発表、倒産、リストラ等引き続き厳しいニュースが続いている。2020年3月期に減損計上に至らなかった会社においても、今後の決算において引き続き減損の検討を継続せざるを得ない状況である。従って、コロナショック下での減損テストは、過去の予算実績の分析も踏まえ、長期的かつ慎重な検討が求められると考えられる。

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
バリュエーション・モデリング・エコノミクスサービス
マネージングディレクター 安廣 史

【執筆協力】
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
内田 悠仁
 

(2020.08.18)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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