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新人病院経理課長の1年(第2話)

今回のテーマ『業務活動と会計処理』

新人病院経理課長、等松太郎の視点を通じて、財務会計上のポイントや留意点をケーススタディの形で解説する 「新人病院経理課長の1年」。第2話では、決算書の作成過程である、業務活動から会計処理(会計仕訳)への流れについて概括的に解説いたします。

新人病院経理課長の1年 (第2話) ストーリー

「石上さん、会計仕訳のうち税理士事務所が担当している仕訳と、石上さんが担当している仕訳があるよね?」 等松太郎は会計処理の流れを把握するために、もう一度経理担当の石上に質問した。
「はぁー、もう、何ですか?」作業を中断させられたのが気に入らないのか、石上は等松太郎を一瞥し、再びパソコンに向かいながら答えた。「私が担当しているのは日々の入出金取引と、月末の業者に対する未払金の仕訳、あとー、国保とかの医業未収金の仕訳。それ以外は、決算仕訳とか、基本的に税理士事務所が担当してます」
「その石上さんの仕訳に必要な情報はどこから集めてるの?」

「どこって、各現場や取引先から提出される資料(解説1参照)ですよ。請求書だったり、精算書だったりに決まってるじゃないですか」
「現場って?」 等松太郎は食い下がった。石上は一層面倒そうに答える。
「医業未収金は医事課だし、医薬品費は薬剤科、診療材料費や消耗品費は用度課、検査委託費は検査科です。それ以外の費用はほとんど私のところに業者さんから直接請求書が来ます。これでいいですか?」

「ちょっと待って。ということは、現場で請求書のチェックをしてる(解説2参照)、ということ?」

「当たり前でしょ。何か問題ありますか?」 石上が再び等松太郎をにらむ。

なんでこの人はこんなにイライラしてるんだ、とあきれながらも等松太郎は説明した。「いやいや、違うんだ。決算書って日々の仕訳から作られるよね?その仕訳の元となる資料に何があって、どこで作っているのか、誰がそれをチェックしているのかを知りたかったんだ」
「ふーん」石上はとりあえず納得したようだった。等松太郎は続けた。「仕訳済みの請求書の綴りとか、どこにある?」

石上は後方のグレーの書棚から『未払金2月分』と書かれた紙の束を引っ張り出し、ドサッと机の上に無造作に置いた。その1ページ目に『総括表』と書かれた、未払金を勘定科目ごとに集計した表が挟まれていた。そこには『石上150327』という判が押されている。
「石上さん、このハンコの日付は?」
「これは会計システムに仕訳入力した日付です」
「えっ? 2月の未払金を3月末に仕訳してるの?」これじゃ月次決算の意味が無いじゃないか、と等松太郎は心の中でつぶやいた。
「月次決算が締まるのはいつ頃?」
「だいたい翌々月の頭くらいです。特に未払金は業者さんのチェックに時間がかかるんです。私のせいじゃないですよ」

どうやら請求書の正確性を確かめるために、請求書と納品書のチェックを卸業者にやらせているようだ。民間企業出身の等松太郎には理解し難い行為だが、よくよく話を聞いてみると石上さんが悪いのではなく、この病院では慣例的に行われている当たり前の処理のようだった。

「これは予想以上に厄介だぞ・・・」 等松太郎の仕事はまだ始まったばかりである。

※本記事はデロイト トーマツ グループ ヘルスケアユニットが執筆し、野村證券㈱のFAX情報として2009年から2010年まで連載されていた「病院経理課長の一年」を最新の情報を盛り込み再構成したものです。

解説1 :業務活動とその結果資料

等松太郎は、はじめに会計仕訳の元となる資料がどの部署で作られ、どのような形で経理部に回ってくるのかを確認しています。なぜなら、決算書はすべての業務活動を会計仕訳により記録することで作成されるため、各部署における業務活動の結果が経理課に漏れなく伝達されていることが何よりも重要となるからです。(図表1参照)
例えば、「医薬品の購入」という業務活動については、卸業者から送付される請求書がその活動結果を表す資料であり、会計仕訳の元となる資料になります。

また、最終的に作成される決算書(月次決算書を含む)には、適正性(病院の実態を適切に表しているか)と適時性(経営意思決定にあたり適切な期間内に作成しているか)が求められます。したがって、各現場から経理課に提出される資料についても正確であること、さらには迅速に作成されることが重要なポイントとなります。

等松太郎は未払金の会計仕訳の遅さに驚いていますが、月次決算は翌月中旬頃に締まるのが理想的です。

詳しくは次回以降の月次決算管理にて解説いたします。

図表1 業務活動から会計仕訳への流れ

解説2: 資料の正確性

適正な決算書を作成するためには、業務活動の結果を表す資料(仕訳の元となる資料)の正確性、すなわち「実際の業務活動」と「業務活動の結果を表す資料」とが一致することを確認する必要があります。

例えば「医薬品の購入」という業務活動の場合、購入した医薬品の代金のみが請求されていれば、その請求書は正確な資料として経理課へ提出することができます。具体的には、納品・検収時に卸業者から提出される納品書のチェックを介して、現物と請求書の一致を確かめることになります(図表2参照)

また、正確な資料を作成するためには、納品者や請求書のチェックを誰が実施するのかという点も考慮する必要があります。例えば図表2の事例において、納品書と現物のチェック及び納品書と請求書のチェックすべてを同一人物が実施していると、請求書の間違いやチェックの不備に気付きにくくなるばかりか、場合によっては職員不正の温床にもなりかねません。

したがって、請求書など「業務活動の結果を表す資料」の作成またはチェックを行う方法や体制を整備することは、適正な決算書の作成という観点だけでなく、適切な業務運営を図るという観点からも重要なポイントとなります。

図表2 請求書の正確性チェック

連載目次

【第1話】「財務分析と会計基準
【第2話】「業務活動から会計処理」※本ページです 
【第3話】「医療機関の月次作業
【第4話】「キャッシュ・フロー経営(資金繰り管理)
【第5話】「月次経営管理 効果的な経営会議の実施」 
【第6話】「患者未収金管理と貸倒引当金(徴収不能引当金)
【第7話】「不正と内部統制
【第8話】「購買管理
【第9話】「実地棚卸
【第10話】「決算作業 1
【第11話】「決算作業 2
【第12話】「会計監査

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