事例紹介

特定目的会社(TMK)の優先出資証券に関する価値分析事例

不動産を裏付資産とする金融債権の評価例として、TMKの優先出資証券の価値分析例を紹介します。

はじめに

不動産を裏付資産とする金融債権の価値分析において、インカム・アプローチを適用する場合、フリー・キャッシュフロー(FCFE)に基づくDCF法を適用のうえ算定することが有用な場合があります。現物不動産を対象とした不動産鑑定評価においてもDCF法が適用される場合がありますが、キャッシュフローの性質や対応する割引率が異なったものとなります。本記事においては、TMKの優先出資証券に関する価値分析事例について紹介します。

案件概要

クライアントは子会社が保有する信託受益権(信託財産:TMKの優先出資証券)の買い取りを検討しており、税務の観点から価値分析(時価評価)が必要となりました。

TMKの特定資産は国内所在不動産でしたが、分析対象となる資産はTMKへの優先出資証券であり、また採用されている投資スキーム上、国内外の複数のビークルが介在すること等もあって、事業計画期間中のWaterfallの分析等を踏まえた価値分析が要求される案件でした。

価値分析アプローチの概要

一般的な価値分析アプローチの手法は以下の通りとなります。これらの中から複数の手法を検討する場合や、最も説得力の高いと考えられる手法を選択適用する場合がありますが、案件に合わせてクライアントと相談を行ったうえで進めていくことになります。

 

本件においては、配当Waterfallの分析も踏まえたうえでの価値把握が必要なこともあり、「分析対象より期待される利益ないしはキャッシュ・フローに基づいて価値を分析するアプローチ」であるインカム・アプローチ、中でも「分析対象会社の将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引いて価値を算出する方法」であるDCF法を適用した価値算定が有用と考えられました。

DCF法による分析(キャッシュフローと割引率)

キャッシュフロー

  • 優先出資証券の評価であることから、TMKの当期純利益(事業計画に基づき、不動産評価同様の損益に加え、AMフィー等のビークルの運営費、支払利息、税金等も勘案したもの)をベースに、複数のビークル間のWaterfallおよびビークル単位での法人税等を含む必要経費を勘案し、本件対象金融債権のFCFE(Free Cash Flow for Equity)を算定のうえ設定を行いました。

割引率

  • 特定資産の性質を勘案すると、日本における上場REIT(Real Estate Investment Trust)の財務数値・ベータおよび市場データをもとに、CAPM理論に基づく株主資本コストを算定のうえ適用することが有用と考えられました。上場REITは投資対象のアセットクラスによってそれぞれポートフォリオとしての性質が異なるため、特定資産との類似性が高い銘柄の選定を行いました。
  • なお、J-REIT市場においてはCOVID-19の影響も認められたため、ベータの観測期間で採用する週月次については、TMKの特定資産の性質も勘案し、最も適した期間を検討のうえ決定する必要がありました。また、ベータの採用にあたって、決定係数が0.1未満、またはサンプル数が100未満のものを除外する等の検討も行う必要がありました。

 

DCF法による分析(分析期間と復帰価格、その他)

分析期間と復帰価格

分析期間は不動産価値評価の世界で標準的に採用される年数(10年)等を参考に設定しました。復帰価格については、分配金に基づく継続価値を採用する場合と、不動産を売却して清算する場合が想定されましたが、特定資産の性質等を勘案のうえ、清算価値を採用しました。

その他

本件評価に当たっては、クライアントより提示された事業計画をベースに価値分析を行うものの、借入金の返済(必要手元現預金を超過する金額については全額返済する)、必要手元現預金(毎期の運営費用の一定割合とする)、TMKからの分配(TMKにおける当期純利益が黒字の場合のみ分配を行う)等の諸条件について、標準的な投資実務慣行を勘案のうえ、詳細な設定の検討を踏まえてキャッシュフローの想定を行いました。

まとめ

優先出資証券の価値分析においては、本件のようにインカム・アプローチが有用となる場合がありますが、当該分析に当たっては、不動産・会計・税務等の知見が必要となり、またスキーム上、海外が絡む場合には当該国の専門性も必要となります。

また、バリュエーションの査定方針やロジック構築においても、不動産または株式評価に係る知見のみでは、説得力を持った分析の実施は困難と考えられます。本件のように、分析に当たって複合的な視点が必要となるケースにおいては、各領域の専門家を揃え、総合的な観点からサポートを提供することができるコンサルタントに相談することが重要です。

デロイト トーマツ グループは、各種バリュエーションや不動産投資スキームの分析、法務・会計・税務も含めて、総合的な観点から、中立的な立場で一貫して支援します。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
不動産アドバイザリー
シニアヴァイスプレジデント 成田 正憲
シニアアナリスト 國井 美里

(2024.4.25)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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