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企業不動産の有効活用に係る判断基準

不動産の有効活用について、自己使用不動産・投資不動産の観点から解説します

現在所有している不動産については、自己使用目的・投資目的を問わず、このまま所有し続けるか、他の意思決定を行うかを検討しておくことが、資産の有効活用の観点から重要です。自己使用物件の場合は賃貸物件への移転やセールアンドリースバック、投資用物件の場合は最適な売却タイミングの検討等がポイントとなり、キャッシュフローの将来予測を踏まえたシミュレーションを行うことで、企業価値の中長期的な向上に資する分析が可能となります。

不動産の有効活用が求められる背景

企業が所有している不動産について効果的に活用することで、企業価値の向上を図るための経営戦略として、CRE (Corporate Real Estate) 戦略が従前より注目されていましたが、コロナ禍を経て、保有不動産の在り方について再考する機運が高まっています。

リモートワークの進展によるオフィススペースの縮小等に加え、人口減少が本格化する今後において、不動産の保有・売却や利用形態等に係る有効活用について再度検討しておくことは、企業価値の中長期的な向上に資するものと思われます。

本記事においては、自社ビル等の自己使用不動産の場合と、貸しビル等の投資用不動産の二つの観点から、有効活用に当たっての初期的な判断基準について検討したいと思います。

 

自己使用不動産の有効活用に係る判断基準

自己使用不動産とは、所有権を有して自身の事業に使用している不動産のことで、自社ビル等が該当します。昨今、所有している自社ビルを売却して、賃貸に変更する企業も散見されますが、当該意思決定において初期的に検討すべき判断基準を参考シミュレーションとともに確認したいと思います。

【所有不動産(自社ビル)の前提条件】
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*以降のシミュレーションにおいても同様ですが、計算をシンプルにするため、取引に係る各種税金については考慮していません。また、各査定金額等の設定に際しては不動産業者へのヒアリング等を活用することが有用です。

**現在時点における新築価格のことで、各費用等の算定ベースとされることが多いため記載しております(本記事内想定においても修繕更新費等の算定ベースとして使用しております)。

 

自社ビルを所有し続けるか賃貸に変更するかの判断については、現在時点でのそれぞれの経済価値の比較により、参考資料として活用することが可能です。ここでは、対象建物の経済的耐用年数が10年の場合を例にとり、当該期間に基づくシミュレーションを行います。

【シミュレーション1-1】 自己所有継続の場合
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【シミュレーション1-2】 自社ビルを売却し、賃貸とする場合
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上記の計算によると、賃貸とする場合の方が、現在価値が高いため優位であるとの結果が得られました。シミュレーション1-2の計算においては、自社ビルを売却し、同時に買主から借り受けることで利用を継続するセールアンドリースバックの前提に基づき、移転費用等は勘案しておりません。また初期的な検討例であるため、想定に合わせた詳細な調整や、別途必要となるコストの検討等は、個別の状況に合わせて行う必要がありますが、賃貸という選択肢も検討余地があることが確認されました(現状のオフィススペースに余剰があり、売却により賃貸面積を縮小する場合はより顕著となりますし、また、当座の資金調達が必要な場合等にも有用となります)。

 

投資用不動産の有効活用に係る判断基準

投資用不動産とは、自身で不動産を使用収益するのではなく、賃借人(テナント)に不動産を賃貸することで収益を収受している不動産が該当します(不動産価格の値上がり益を見込む所有も含みます)。

投資用不動産の評価は、将来にわたる収支項目の現在価値により把握されますので、分析期間に渡る各収支項目の見立てが重要です。基本的には、即時売却、従来通り保有継続、リニューアルの実施等、複数のシナリオを検討し、比較を行うことになります。

ここでは、容積未消化(土地面積と消化可能な指定容積率に対して、実際の建物面積が小さい不動産)により、建物が最有効使用の状態にない不動産を例に取り、即時売却と従来通りの保有継続(建物の経済的耐用年数である10年間保有)のシナリオ比較を行ってみたいと思います。

【最有効使用にない不動産の前提条件】
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【シミュレーション2-1】 即時売却する場合
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上記の計算によると、即時売却する場合の方が、現在価値が高く優位であるとの結果が得られました。保有継続の計算においては、最終年度時点において、定期建物賃貸借契約を締結していることを前提に、立退料等は不要とする前提に基づき計算を行っています。また、価格に比べて大きな水準の変化がない賃料については、分析期間中横ばいとしています。当該分析も初期的なものであるため、個別の状況に合わせて詳細調整を行う必要がありますが、早期売却という選択肢も検討余地があることが確認されました。

 

【シミュレーション2-2】 10年間(建物の経済的耐用年数)運用後、更地化して売却する場合
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まとめ

上記の分析を踏まえると、自己使用不動産・投資用不動産の双方の場合において、将来のキャッシュフローや不動産価格の見立てが非常に重要になることが分かります。不動産マーケットや対象不動産の個別の事情を反映させることで、より精緻な分析が可能となります。

特に賃料や修繕更新に係る見立ては不動産専門家においても難易度の高い分野となりますので、過去の推移や周辺開発状況、類似事例等を詳細に分析することで、説得力のあるシミュレーションを構築することが重要です。

デロイト トーマツでは、不動産、建築、データ分析等の専門家が多数所属しておりますので、これらのシミュレーションに係るサポートも可能です。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
不動産アドバイザリー
シニアヴァイスプレジデント 成田 正憲
ヴァイスプレジデント 大関 仁

※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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