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“AIによる不正検知”がクレジット業界の標準になるために

2019年2月、デロイトアナリティクス染谷 豊浩による講演

2019年2月28日、一般社団法人日本クレジット協会の平成30年度 カードセキュリティ研究部会が開催。デロイトアナリティクスの染谷 豊浩が「AIを活用した不正検知の可能性」と題し、講演を行いました。本記事では、講演での内容を要約して紹介します。

ビジネスに利用できるデータが爆発的に増え、重要な経営資源になりつつある昨今、再び注目を集めるアナリティクス。「第3次AIブーム」が叫ばれ、技術が急激に進歩する中、様々な業界でのアナリティクス活用の検討が進んでいます。クレジット業界では、クレジットの不正利用に対する手段としてのビッグデータやAIの活用が期待されています。クレジット業界において不正利用対策の強化が求められる背景を概観し、テクノロジーを活用した不正対策について考えてみたいと思います。

クレジット不正利用対策の強化が求められる背景

インターネット取引の増加に伴い、クレジット業界での不正利用の件数・金額は年々増加しています。この状況は、イシュア―/加盟店の収益悪化、利用阻害による正常利用者の利便性低下を招いています。

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日本クレジット協会「クレジットカード不正使用被害の発生状況」資料より当法人作成(国内番号盗用、海外番号盗用は2014年以降に設置      

一般のユーザーでは容易にアクセスできない“ダークWeb”と呼ばれるウェブサイトでは、盗まれたクレジットカード情報が売買され、カード所有者の特定につながる情報がやりとりされています。サイバー犯罪者の間では、不正利用に関するノウハウとして不正利用の検知を回避する手段についても情報が共有されています。

<最近のクレジットカード不正の全体像>

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2018年12月には数千件規模の日本のクレジットカード情報がダークマーケットに出品されたとも報じられ、問題視されていますが、この領域はインテリジェンスの活用により、不正利用の未然防止や早期察知が実現されており、一定の効果を挙げている領域と考えられています。デロイト トーマツ グループでも、ダークWebで行われているクレジットカードの不正売買に関するモニタリングを行い、不正利用の被害防止に貢献しています。

       

クレジット業界におけるビッグデータやAIの活用の進展へ

では、ビッグデータやAIの活用はどうでしょうか。会計不正や品質不正、汚職、クレジットやローンの不正申込/不正利用など、幅広い領域での不正に対してビッグデータやAIを活用した「不正検知」に対する期待が高まっています。しかし、その期待の中には「AIを使うとピンポイントで不正な取引を検知できる」「AIが最新の手口を自動的に学習してくれるのでルールは不要になる」「AIを導入すると人手による対応が不要になる」など、過剰な期待に基づく誤解が生まれているのも事実であり、AIやスコアリング(与信モデルの結果)は絶対的なものではなく、「相対的な」情報であることを理解する必要があります。

さらに、クレジット業界に特有なリスクに対する考え方についても留意が必要です。与信業務における「信用リスク」と、上記の「不正に関するリスク」は異なるリスクであり、データ活用においても区別して考えるべきです。加えて、「不正申込対策」と「不正利用対策」の間にも、データ活用上の対策に違いが生まれます。

クレジット業界が置かれるこのような状況を踏まえ、以下の図表に含まれる4つのアプローチの特性を比較すると、不正対策にはAIモデル(スコアリング)とルールベースの組合せでの対応が有効であると考えられます。

<不正検知のためのデータ活用アプローチの比較>

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不正対策の目的で、業界内でも様々なソリューションの導入や対策が取られています。不正検知の分野は、国内では機械学習等のAIモデルによる検知精度の向上や省力化の取組みが始まって間もないですが、現在の信用スコアリングのように、数年後には一般的になる可能性が高いでしょう。

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